ポル/パリ 009 「 it's rainin'」
あるのは、こじんまりとしたお城と
こじんまりとした街。
そのお城がリノベーションされて
ポサーダになっている。
オビドスに着いたのは、もう夜。
荷物をほどいて、少し休んでから、
ダイニングへ。
誰もいない。
誰もいないお城のダイニング。
でも大きさがほどよく
広く、狭くて、親密感がある。
サーブしてくれるのは、若い女の子。
すごくかわいらしくて性格がいい子。
絵本をもってくればよかった。
プレゼントできるのに。。
食前酒は?
と聞かれて、
ちょっと、考えて、そうだ、と
オビドスの名産を思い出してオーダー。
「ジンジャ」
何品かのお料理がテーブルに運ばれて来ても、
他の宿泊客が来る気配なし。
やさしい味付けの魚介料理とポルトガルの白ワイン。
今日見てきた景色を思い出しながら。
ふと外を見ると、静かな雨が降り出してる。
お城の窓はライトアップされているので、
そのライトに降り出した夜の雨が浮かぶ。
一日の旅の疲れと、静かな夜の雨と、おいしいお料理。
親密な歴史あるダイニングとかわいらしい女の子。
女の子は、デザートを運んでくれたあと、
ふと、窓の方に歩いていって、
雨がふっているのに気づいて、
ひとりごとみたいに、ぽつり、つぶやく。
「it's rainin’」
英語のひびきって、きれいだな、と思う。
つぶやいただけで歌っているように聞こえる。
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『it's rainin’』という曲は、
大好きなジム・ジャームッシュの映画、
『dwon by low』の中のチークダンスのシーンで流れる。
わたしは、この『dwon by low』のチークダンスのシーンは、
チークダンスシーン史上最高なのでは、と
ずっと思ってる。
映画を見たあと、なんて素晴らしいんだろう、
と思って、そのときかかっていた曲を
中古レコード屋さんで探した。
歌っているのはアーマ・トーマスというひと。
チークダンスを踊っていた男の俳優は、
その後、『life is beautiful』という映画をつくる
ロベルト・ベニーニっていうイタリア人。
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ポルトガル、オビドスの雨の降るお城で
アーマ・トマースとロベルト・ベニーニのことを
しばらく考える。
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これからは、雨がふるたびに、
あの歌うようなつぶやきを思い出す気がする。
it's rainin'
ポル/パリ 009