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ねこの郵便屋

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ねこの郵便屋は、郵便のかばんを
たすきがけにしたまま、
バスの停留所のベンチに
ぐったりと座っていました。


ねこの郵便屋は、なんだかとても疲れていました。


今日は昨日のただのくりかえしで、
明日は今日のただのくりかえしなのではないか、
といったことを、ねこの郵便屋は
ぼんやり考えました。


かばんの中には、小包がひとつだけ入っていました。
その小包も、自己主張の強いきつねの同僚のように、
はやくはやくと、ねこの郵便屋を
せかしているように思えて、
気が重くなるばかりでした。


ねこの郵便屋は、
うんと遠くへ行きたい気持ちになりました。


バス停にバスが来ると、
ねこの郵便屋は、ふらふらとバスに乗り込んでしまいました。


バスにはすこしの乗客が乗っていましたが、
ねこの郵便屋に気をとめるものはいませんでした。
運転手だけがちらっとねこの郵便屋を見ました。


ねこの郵便屋は、窓側の席に座りました。

それからずっと、バスにゆられながら、
窓の外を眺めていました。



窓の外には、すすき野原が広がっていました。
すすき野原は海のようにうねり、

こちらまで、あふれてきそうだ、

とねこの郵便屋は思いました。



やがてだんだん日が暮れてきて、
すすき野原は、赤く輝きながら
夕暮れをなでるようにうねっていました。


日が暮れてしまうと、澄んだ星空がひろがりました。
すすき野原は、まだまだつづいていて、
こんどは、澄んだ星空をなでるようにうねっていました。




ねこの郵便屋は、ふと

このバスはどこまで行くんだろう

と不安になりました。


車内を見渡すと、もう誰ものっていませんでした。

ねこの郵便屋は、こわくなって運転手の方に行こうと
席を立ち、前へ前へと歩いていきました。

けれども、バスは、まるで長い長い廊下のようで、
はるか前の運転手のところには、
歩いても歩いてもたどり着けません。


バスの両側では、月の光に照らされたすすき野原が、
嵐の夜の海のように黒々と激しくうねっていました。



ここは、もう別の世界なんだ。。


ねこの郵便屋は、あきらめて席に座りました。




しばらく窓の外を見ていると、
嵐の夜の海のようなすすき野原の向こうに、
わずかな明かりが見えてきました。

バスはだんだん明かりの方に近づいていきました。

その明かりは、小さな家の明かりでした。
玄関先の郵便ポストの前には、
小さな女の子が立っていました。

大事な郵便をずっと待っているようでした。



ねこの郵便屋は、急に思い出しました。


この小包は、あの家に届けるものだ。


ねこの郵便屋は、あわててバスのブザーをおしました。
バスはとまりドアがあきました。


ねこの郵便屋は、バスをかけおり、
嵐のようにうねるすすき野原を、
明かりの方に、ぐんぐんすすんでいきました。


うしろで、バスが行ってしまう音が聞こえました。
すすき野原は、ねこの郵便屋を、
とおせんぼするように、
目隠しするように、
うねっていました。

ねこの郵便屋は、すすき野原をかきわけかきわけ
ただただ女の子に小包を渡すために、
明かりの方にすすんでいきました。








 ねこの郵便屋_b0072051_652058.jpg
by ayu_cafe | 2010-04-08 00:32 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(10)
Commented by ネズミムスメ at 2010-04-08 01:34 x
いそいで一回読んで、
ゆっくり二回目を読みました。
心がじんわりしました。
Commented by トミミン at 2010-04-08 02:20 x
ねこの郵便屋さんはわたしと一緒のことを思ってたんだ。
わたしも毎日、毎日、同じ事の繰り返しで虚しいって、クリニックの先生に言ったことあるんです。
そしたら先生、笑って「みんなそうだよ。仕方ないよ。」って、、、
ねこの郵便屋さんは無事にお家に辿りつけたかな?
Commented by ayu_cafe at 2010-04-09 01:07
ネズミムスメさん、うわ、うれしいです。
ありがとうございますね。
いそいで、と、ゆっくり、なんて
このうれしさは、作者冥利につきます(笑)
Commented by ayu_cafe at 2010-04-09 01:11
トミミンさん、
みんなそうだよ、しかたないよ、
ってなんでか、ほっとしますね。
う〜む、強い言葉なのかもしれません。。

家に帰ったんですかね。。
わたしも気になるところです。。
バスをおりたところで、見失いました。。
トミミンさんちになにか急に届けにくるかも
しれません。。
Commented by まる at 2010-04-09 01:17 x
「ねこの郵便屋さん」の繰り返しがクセになります。
短い文章で物語を作ってしまうayuさんに、毎度脱帽です。
私にはねこの郵便屋さん、グレーと白の縞模様に見えました。

この写真は何ですか??
金ぴかですが、猫の足にも見えたり。。
とても美しい写真で、気になってしまいました。



Commented by TM at 2010-04-09 13:54 x
人とつながるためには、自分の足で歩いていかないと、ですね。
奇跡はきっかけにはなっても、幸せを運んではこない。

写真、ライトでしょうか??
Commented by ayu_cafe at 2010-04-13 09:54
まるさん、これね、ちょっと、きりんの
郵便屋さんから影響受けてます。実は(笑)
あんな絵が描ける人に、むしろ脱帽です。

これは、ライト。
北海道、洞爺湖、月浦の
ガラス作家gla_glaさんのもの。
宇宙に浮かぶ生き物みたいですよね。

Commented by ayu_cafe at 2010-04-13 09:58
TMさん、そうそう自分で歩いてかないとね、
ついつい、電車やバスやチャリに
のってしまえばいいか、と思いがちですが、
やっぱり歩くの基本ですよね。
奇跡はきっかけにすぎない、
なんていい言葉だあ。
これこんどタイトルに使わせてください。

写真、ライトです。
買ってくればよかった。。



Commented by TM at 2010-04-13 22:01 x
PCを立ち上げていなかったのでiPhoneから
コメントさせていただいたのですが、
きちんと入力されていなかったかもしれませんので、
再度コメントさせていただきます。
もし先のものも送信されていましたら、
そちらは破棄してしまってください。すみません。

タイトルだなんてもったいないですが、
使っていただけたらきっと喜ぶことと思います。

ライト、ておばちゃんみたいな言葉遣いだな、
て後から思いました(笑)
ランプ、て呼んであげたらよかった。

私もこの子に一目惚れです。
飛行機だと割れ物には慎重になっちゃいますよね…。
北海道を離れたくない子なのかな(笑)
Commented by ayu_cafe at 2010-04-14 09:34
TMさん、いただいたもの、ひとつでした。
承認制なので、すぐに確認できないんですよね、
ご迷惑おかけします。

ありがとうございます!
では、使わせていただきますね☆

ははは、いいじゃないですか、
どちらでも、呼び方なんて。
惚れてしまえば。。笑

これは、gla_glaさんの東京での
個展?の時に撮りました。
たぶん、旅できるとおもいます。
いま、gla_glaさんは、広島かな?
百貨店で展示販売?されてます。
各所、旅されてます。
たしか、通販もあったはずです!