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自分の人生を使用して美しい作品をつくる。ソフィアコッポラ「サムホエア」

自分の人生を使用して美しい作品をつくる。ソフィアコッポラ「サムホエア」_b0072051_841027.jpg



ソフィアコッポラ
サムホエア


とにかくこのシーンが
素晴らしい。



親子でギターのゲームやるところ。

ギターってなにが重要かって
持ったときの構え、だと思うんだけど
この親子、めちゃくちゃ構えが
決まってる。


このシーンの間中、
映像の奇跡がしばらく続く。



ソフィアコッポラって
サブカルの七光りの
雰囲気写真集MTVかなと思ってたけど
全然ちがう。
ほんとにごめんなさい。



サントラをやったフェニックスの
メンバーが

主人公が乗るフェラーリの
モーター音をじゃましないように
なじませるように
音をつけた


っていってたけど、
なんて素敵なんだろう。



監督は、あのフェラーリのモーター音に
すごく雄弁になにかを語らせている。
どんな音楽よりも。






駐車場に置いたフェラーリに
親子がもどり、フロントのガバーを
開けて荷物を入れるところを
うんとひいた俯瞰でとっている映像も
素晴らしい。

3-4×10月の北野アングルみたい。

いや、この時代のアングルかな。




これ以降見る作品で
安易に事件がおこり、感情がはきだされ、
ドラマになってしまっていたら
安易だな、つくりものだなと
すぐに感じてしまうだろう。



あのイタリアのTVの
アッパーぶりもリアル。
ほんとあんな感じ。




なにより
あれだけセレブな設定の
主人公の虚無に
なんのセレブでもないこちらが
アジャストして
しまう作品の強さがすごい。



娘の完璧な可愛らしさと美しさも
すごいけど

主人公のスティーブンドーフの
足場のないたたづまいと
表情が素晴らしい。

役者と作品の幸運な結婚。



解説を読むとストーリーや
ラストの意味付けは
あるんだろうけど
あんまりそこは理解できなかった。


むしろ、虚無感の中で
なにかを、どこかを
誠実に探そうとするのが
見えるか見えないかというレベルの
上品なスティーブンドーフの
演技に、元気がでた。



カリフォルニアの病理でも
退廃でもない。
虚無とすら言い切ってしまうのも
乱暴な気がする。



ひとりの女の子が
雨の日に感じるような
おぼつかない気持ちを
自分の人生をニュートラルに
使用して作品にした。




あのホテルでギターをひいて
歌ってくれる年老いたボーイさん、
ソフィアが小さい頃から
ほんとにあのホテルでソフィアに
歌ってくれてたボーイさんだって。




ソフィアほどのセレブレティが
自分に素直になって
自分の時代感(われわれの時代感)で
かたよりなく、つくろいなく
作品を紡ぎ、
世界の隅の疲れた会社員に、
最小限のセリフと音楽で
元気を届けてしまう。

それゃヴネツィアで賞獲るよ。


スタイルを追い抜いて
形式を追い抜いて
きちんと個人がある。
きちんと迷える人間がある。

そして映像は美しい。
だから、映像は美しい。




自分の人生を使用して美しい作品をつくる。ソフィアコッポラ「サムホエア」_b0072051_841512.jpg

by ayu_cafe | 2012-05-22 08:45 | Trackback | Comments(2)
Commented by yuppu at 2012-05-22 10:41 x
私もこの作品が本当に好きです。
悲しくて美しい。
ayuさんみたいにうまくいえないけれど。

今日はすこし気分がよどんでいましたが、
ブログ読めて気分が晴れてきました。
ありがとうございます。
Commented by ayu_cafe at 2012-05-23 08:37
yuppuさん
こちらこそ
ありがとうございますね。
そうですね、
あんなにわざとらしくなく
悲しさとぬくもりが
美しく表現できるなんて
すごいと思いますね。