庭にて。
ちいさな頃、山のふもとの
祖父母の家で暮らしていた。
材木屋がつぶれてなんとか残した土地は
それでも小さくなく、そこに祖父母は
樹々や草花を植えた。
ターシャの庭を見ると懐かしいと感じる。
大きなくるみの樹の緑の木陰で、
さくらんぼや桃やすももの果樹を抜けて、
水路から水を引いたせせらぐ
チューリップの花壇で、
気が遠くなるほど静かな時間を過ごした。
バブル期に町が
意味のない道を通すことを決め、
祖父母の庭はかたちを変えた。
いま思うとたまたまよい時期に
あの庭で過ごせた。
永遠なんてない、どころではなく、
生は激しい喪失の連鎖だ。
うたづくりも本づくりも庭づくりも
趣味じゃない。
あの庭を圧倒的に取り戻してるだけ。
喪失の運命に復讐してるだけ。