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カテゴリ:ayuCafe 創作 Bar( 33 )

ムスカリの青い森で魂とひきかえに悪魔から美しいコードを手に入れる。

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気がつくと男は
青い森を歩いていた。

見上げるとみたこともない
巨大なムスカリが
道の両側に生い茂り
森を青く染めていた。

十字路に出た。

十字路の隅で悪魔が泣いていた。

悪魔はとても太っていて
黒縁のメガネをして
ピアノの白鍵のようなものを
握りしめて泣いていた。

男は悪魔に
どうして泣いているのかと
尋ねた。

悪魔は男の目を見ずに、
小さな声で話しはじめた。


自分は南の悪魔で
ずっと北の悪魔が書く曲に
憧れていた。

ある日ついに自分でも
誇らしい曲ができた。

曲は噂になり、
ついに、北の悪魔が
南の悪魔を訪ねてきた。

自分はとてもうれしかったが
急に恥ずかしくなって
怖くなって
リビングのピアノの
白鍵を意味もなくむしりとり
逃げ出した。
気づいたらここにいた。



南の悪魔は
話していたら落ち着いてきた
ようで、男にひとつ
取り引きをもちかけた。


この白鍵と
きみの魂を取り引きしないか。
ぼくは音楽に囚われすぎていて
ふつうの魂がたりないんだ。


男は、いいよ、と
取り引きに同意した。




男はそれから
長い時間をかけて
家に戻った。


男は白鍵を
そばに置いて
ギターを手に取り
コードを弾いた。


それは聞いたことのない
神秘的なコードだった。

雨の日の南の海が香るようで、
つめたい雨雲が美しく織りなして
いるようだった。


それは悪魔にしか紡げない
美しいコードだった。

そこには、恥と、嘘と、憧れと、
残酷と、失意があった。


男はギターでそのコードを
奏で続けた。


男には魂がなく
空っぽだった。

空っぽの男の身体の中に、

恥と、嘘と、憧れと、
残酷と、失意でできた
つめたい雨雲のような
美しいコードが、

ずっと響いていた。










by ayu_cafe | 2014-04-12 22:49 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

桜惑星のため息。

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桜惑星では、
桜がずっと咲き続け
ひとが一瞬で散ったり
芽吹いたりする。


この春もたくさんのひとが散った。
残ったわずかのひとが
夕陽を浴びにきていた。


桜惑星では、陽は高くのぼらず、
気温はひんやりと低いままだった。


誰かがポータブルプレイヤーを
もってきていて
アニタオディの
ステラバイスターライトをかけていた。


桜惑星の桜は
ひとが、ごくわずかのあいだに
芽吹き、咲き、散る様子を
だまってみていた。


そのあまりのはかなさと
無意味さに
ときおり、桜はその花びらを
はらはらとおとした。
涙のように。
ため息のように。


ひとびとは、そんな桜を
きれいだ、と言って見上げた。


突然、とても強い風が吹いて
ポータブルプレイヤーの
ステラバイスターライトがとまった。


あたりにはだれもいなくなっていた。
みんな散った。


桜惑星の桜がひんやりとした空で
また、ため息をついた。



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by ayu_cafe | 2014-04-06 11:58 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

春に残ったものはなにもない。

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春はからっぽで、がらんとしている。

あれほど親密な冬のことなど
なかったことにされている。

春に残ったものはなにもない。

光だけが騒がしい。









by ayu_cafe | 2014-03-25 10:55 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

雪は余白。

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雪は余白

詩は余白

うたは余白

出会うことは余白

失うことは余白

余白で手をはなす

余白に眠る

そんなに価値を意味を
求めなくていい

雪は余白

詩は余白

美しい余白

一生は
きみのための
ただ美しい余白

だから自由だ

いくら汚してもかまわない

また、雪が降り
真っ白にしてくれる。









by ayu_cafe | 2014-02-16 14:49 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

遅れてきた男。つぐみの吹雪。

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男は遅れてやってきた
人々は笑い、ねたみ、噂をし
静かに傷つけあっていた


男は遅れてやってきた
靴からは11月の土の匂いがして
コートからは2月の雪の匂いがした


男は遅れてやってきた
汚れきっているようにも見えたし
冬の枯枝のように純朴にも見えた


男は遅れてやってきた
黙ってコートのポケットから
雪で凍ったつぐみを出した


男は遅れてやってきた
雪が溶けるとつぐみは目を覚まし
粉雪のような声で歌い出した


つぐみは雪を降らせた
粉雪は吹雪になり世界は
雪に沈んだ
つぐみの歌で世界は雪に沈んだ


笑うものもねたむものも
噂するものもみんな黙った
雪に沈みただ静寂だけがあった


男はこの場所を去った
降らせた雪に埋れ眠ったつぐみは
男のコートのポケットにいた




はるかかなたの別の世界
人々は笑い、ねたみ、噂をし
静かに傷つけあっていた


男は遅れてやってきた
靴からは11月の土の匂いがして
コートからは2月の雪の匂いがした










by ayu_cafe | 2014-02-14 10:18 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

音信不通。

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音信不通のリードボーカルを待つ
バンドのメンバーがいる。


音信不通のウエイトレスを待つ
中華料理屋のコックがいる。


音信不通の妻を待つ
老人がいる。


音信不通の図書館司書を待つ
図書館司書がいる。


音信不通の犯罪者を待つ
共犯者がいる。


音信不通の転校生を待つ
同級生がいる。



彼らは、

音信不通の相手と

音信不通の間、

つながっていられる。










by ayu_cafe | 2014-02-12 22:24 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

*横柄なシマリスとクスクス子ぐま*

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「いったいなんだって言うんだね」
横柄なシマリスは、腰に手をあてて
シマリスからみたら、大きな大きな子熊を
見上げてぷんぷん怒っています。


クスクス子熊は、子熊からみたら
小さな小さなシマリスが
いばって、怒っているのを見ると
かわいくてしかたなくて、
手を口にあてて、クスクス笑ってしまいます。


「だってシマリスさん、小さいんだもの」
クスクス子ぐまは、クスクス笑いながら答えます。

「けしからん、まったくけしからん」
横柄なシマリスは、機嫌を損ねて、
樫の樹の小さな家にひっこんでしまいます。



いつも横柄なシマリスが、機嫌を損ねると
クスクス子ぐまは、蜂蜜を
横柄なシマリスに差し入れます。


そうすると少し、横柄なシマリスの機嫌はなおります。


クスクス子ぐまは、毎日のように
横柄なシマリスの樫の樹の家に遊びに来ます、


横柄なシマリスは、自宅の中で
いつも横柄に食事をしています。

でも、テーブルには、クロス。
おいしそうなパンと飲み物。
栗のデザートまで用意していて
きちんとしています。

「わしのつくるパンは、もっとみんなに
ほめられるべきじゃな、このクルミと蜂蜜が
ふんだんに入ったシマリスパン、
これをつくらせたら、わしの右にでるものは
いないじゃろ」


クスクス子ぐまは、手を口にあてて
クスクス笑いながら、横柄なシマリスの
自慢話を聞いています。



ある日、横柄なシマリスのところに毎日来ていた
クスクス子ぐまが、姿を見せませんでした。

次の日も、その次の日も。


横柄なシマリスは、樫の樹の高いところに
のぼって、横柄にあたりを見回しました。
少し離れたところに、
森がぽっかりとひらけて
湖が、6月の青空を静かに映していました。


横柄なシマリスは、樫の樹の上で(けしからん)と思いました。

横柄なシマリスは、前に
クスクス子ぐまから聞いていた
湖のそばのクスクス子ぐまの家に行ってみることにしました。


帽子をかぶり、ステッキをもって、横柄に出かけました。
でも、ふだんあまり家のまわりしか出歩かない
横柄なシマリスは、不慣れな場所を歩くときは、
あまり横柄ではいられませんでした。



やがて、横柄なシマリスは、クスクス子ぐまの家を見つけ、
ドアを横柄にノックすると
クスクス子ぐまのお母さんがドアを開けました。

横柄なシマリスは、たじろいだそぶりも見せず、
できるだけ横柄に挨拶しました。

「あ、はじめまして。クスクス子ぐま君は、
ご在宅かな?」

「あら、お話は聞いていますわ。わざわざいらっしゃい」
クスクス子ぐまのお母さんは、
クスクス子ぐまから毎日話しを聞いていた横柄なシマリスと
対面して、クスクス笑うのをこらえながら答えました。

「うちの子、熱を出して寝込んでいましてね。
わざわざ来ていただいたのに、ごめんなさいね。」


横柄なシマリスは、
クスクス子ぐまのお母さんを見上げて横柄に答えました。

「ああ、なに、構いません、そういうことであれば。
ただ、ちょっと通りがかっただけのことですので。
うむ、クスクス子ぐま君に、くれぐれもお大事に、とお伝えください」


クスクス子ぐまのお母さんに見送られながら、
横柄なシマリスは、帰ってゆきました。



次の日、クスクス子ぐまのお母さんが
ドアを開けると、そこに、樫の樹の葉で包まれたものが
置いてありました。
家に入ってあけてみると、樫の樹の葉の包みには、
クルミと蜂蜜のシマリスパンが5つ入っていました。



クスクス子ぐまのお母さんは、ベッドで寝ているクスクス子ぐまに
シマリスパンを見せて、
「きっと、けしからん、まったくけしからんって
言いながら、シマリスパンをかついで来てくれたんだね」
とふたりでクスクス笑いました。


クスクス子ぐまは、

「具合がよくなったら、横柄なシマリスさんに、今度は木いちごを
差し入れよう、でも、きっと、横柄なんだろうな」

と思い、口に手をあててクスクス笑いました。







*横柄なシマリスとクスクス子ぐま*
by ayu_cafe | 2011-06-11 04:55 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(6)

あたたかい木枯らし。

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わたしは、なつかしいやまのふもとの祖父母の家に帰る。

バスを降りて、バス停から歩くと、祖父母の家が見えてくる。


正確には、家ではなく、こんもりと繁った大きな樹々が見えてくる。

祖父母は、樹々や、花々をそのたっぷりとした土地で育てていた。

遠くからその、こんもりとした祖父母の樹々をみるのが、いつも楽しみ。

わたしは、ここで育って、なんどもここに帰ってきた。



わたしが、その家に近づくと、不思議と、そこに、誰かがいる気配を感じる。

とても愛らしい誰か、とてもにこやかな誰か。

わたしは、家に入っていないのに、その誰かが見える。

それは、誰かではなく、なにかだ。

とても愛らしいなにか、とてもにこやかななにか。



それは、生き物、かいじゅう、なんだろう、でも、親しげ。

そのなにかが、ながい細いすすきのようなものをのばす。

家に入っていない、わたしに、ながいながい細いすすきのようなものが届く。

それは、敵意がない。なでるように、触るように、わたしに届く。



わたしは、いつのまにか、祖父母の家に帰っている。

その愛らしいなにかは、ちいさくて、にこやか。

たぶん、かれらが、祖父母なんだ。

かれらは、わたしが帰ってきて、とてもにこやか。

でも、ことばは通じないみたい。。




そして、わたしは、気づく。




「ああ、祖父も、祖母も、もういなくて、

この家ももうないから、こうゆう風に見えているんだ。」




わたしは、いつのまにか、手を上にあげて、

えんじ色の鉄のパイプをつかんでいる。

あ、これは、庭にあった古いさびたブランコだ。



祖母の植えた、秋の花があたりに咲き乱れていて、

昔使っていた古い浴槽が、すぐ近くにあって、

雨水がたまって、水草が生えたその中で、金魚がひらめく。



わたしは、えんじのブランコの鉄パイプをつかむ自分の手をみる。

それは、いつものわたしの手ではなくて、

なにかの手だった。

動物、かいじゅう、なにか他の生き物。。



ふりかえると、家の縁側で、祖父母のようななにかが、

にこやかに、愛らしげに、笑ってこっちを見ている。




わたしも、死ぬんだろうか、と手をみながら思う。





すると、ちかくのやまからころげおちてくるように、

大きな大きな木枯らしが吹いてくる。





わたしは、ふわっと一瞬でその大きな木枯らしに空高く巻き上げられる。

眼下に、祖父母の家と庭がみえる。

あたりのものもみんな巻き上げられる。

ブランコ、秋の草花、金魚、木の実、枯葉、野菜。

家もこなごなになって、その中のものも巻き上げられる。

木の時計、祖父の絵筆、祖母のお気に入りのハンカチ。

祖父母ような愛らしいなにかも。



それらが、美しい模様のように、

どこかの国のきれいなカーテンの模様のように、あたりにちらばる。

わたしを、取り巻くように、つつむように。




わたしは、はるか上空で、わたしが育てられたものに、つつまれながら、

そこが、豊かな母ぎつねのしっぽにつつまれているみたいに

あたたかい、と思う。



木枯らしって、あたたかいんだ、と気づく。




そして、わたしは、こうやって、空高くのぼっていって、

いよいよ死ぬのかな、と思う。





でも、いや、ちがう、と気づく。





目覚めるんだ、と気づく。












やがて、目が覚めると、秋晴れの9月。



からだは、まだ、いろいろなものが、きれいにちらばった、

あたたかい木枯らしにつつまれている。












*あたたかい木枯らし*
by ayu_cafe | 2010-09-22 01:32 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

Marrakech

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マラケッシュ、午前四時。ホテルの中庭の噴水も止まっている。
木製のブラインドから白みかけた空がみえる。
近くの砂漠の冷気を感じる。

夕べ、イギリス人が集まるバーのカウンターに腰掛け、
大音量でかかるLed Zeppelinの〈Kashmir〉を聞きながら
テキーラで唇をしびれさせていると、日本人の女の子が話し掛けてきた。

だけど、マラケッシュでテキーラでツェッペリンだ。
まともに話なんかできるわけがない。
放っておくと女の子は、あきらめたのか、バーテンダーになにか叫んで、
自分のグラスを指差し、人差し指をたてた。

日本人の女の子のぽってりとした下唇を見ているうちに
三ヶ月前に別れたロンドンの彼女のことを思い出した。
凍えそうな一月のリージェントストリートで
あかりのともったショーウインドウを順番に見ていったことや、
トルファルガー広場のホームレスが、どこからか仕入れてきたワインで
ニューイヤーを祝っているのを、二人でぼんやりと見ていたことを思い出した。

遠くで市場の用意の音がし始める。

日本人の女の子は、あたりまえのようにシーツにくるまって眠っている。
しびれた体で起きあがり、テーブルのレモン水をグラスに注ぎ、ひといきに飲んだ。
それから、イスラム模様のポストカードを眺め、
ロンドンの彼女に書くメッセージを考えた。




マラケッシュで〈Kashmir〉を聞いたよ。
Jimmy Pageは、「おれが死んだらマラケッシュ上空から灰をまいてくれ」
って遺言してるような気がする。
Jimmy Pageの灰がしみこんだマラケッシュの街から
夜毎、〈Kashmir〉が聞こえてくるなんて、なんて素敵なんだろう。




メッセージは考えるだけで書かなかった。



日本人の女の子の寝息が聞こえる。
もうすぐ、コーランがはじまる。




Marrakech
by ayu_cafe | 2010-09-04 01:44 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)

Long Beach,California

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向かいに越して来たばかりの婦人が、新車のクライスラーを洗っている。
八月の強烈な日射しが、水しぶきに、いくつかの虹をつくる。

「おーい、ロングビーチのプールに行くぞ」
朝食のかたずけをおえると、リビングでTVゲームをしている息子に向かって叫んだ。
息子は素直にTVゲームを消して、二階の部屋にプールの用意を取りに行った。

明日から、息子の小学校が始まるという日になって、やっと会社の夏休みがとれた。
ラジオでかかっている、Red Hot Chilippepersを聞きながら
バイパスを乗り変えてロングビーチへ向かう。
ロングビーチのプールには、息子が小学校に入ってから毎夏一回は行っている。
巨大な流れるプールが名物で、ブールサイドから、まっすぐに続くビーチが一望できる。

子供の頃、親父と一緒にあのプールに行ったことがあった。
あの日も親父が、プールに行くぞ、と言い出して、親父のフォードに乗って出かけた。

親父は、途中、ドラッグストアで車を止め、
パイナップルのMサイズの缶詰を一つ買って戻って来た。
ひとしきりプールで泳いだ後、プールサイドの端のあたたかいコンクリートに
二人で座って、ビーチを眺めながら、パイナップルを食べた。

たしか、夏休みの終盤だった。
プールは家族やカップルでにぎわっていて、かなり騒がしかったはずなのに
親父と二人で、かわりばんこにパイナップルを食べていた
あのコンクリートの一角は、なぜか、とても静かだった印象がある。

そういえば、あの時、派手なパーマをかけた女が、
おれが缶にフォークを突っ込んでパイナップルをすくっているのを見て、
「ねえねえ、この子、かわいい」と言って連れの男と一緒に近付いてきた。
女は、親父に「この子がパイナップル食べてるとこ、写真撮ってもいい?」と聞いて、
親父がうなずくと、二、三枚おれの写真を撮った。
おれと親父はなんだか、ぽかんとしていた。

車のラジオで、Oasisが〈Whatever〉を歌っている。
八月のカリフォルニアを低い入道雲が周囲している。
ショッピングコンプレックスの広大な駐車場に車を止める。
息子と一緒に、パイナップルの缶詰めを買いに行く。




Long Beach,California
by ayu_cafe | 2010-08-26 08:00 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(0)