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うまく説明できない、というのは、なんて苦々しくて、なんて素晴らしいことか。

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長谷部千彩さんのブログから、再び。
(過去ログが消えてしまうのが悲しすぎる。。)





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昨日、どうして香港に行きたいと思ったのか、考えてみたけれど、
うまく言い表せる言葉が見つからなかった。

去年、初めて香港を訪れたとき、
ここに2、3ヶ月住んでみたい、と思った。

路地を歩いているとき、鳥の声が聞こえてきて、
どうしてこんな古いビルしかないところで鳥の声がするのだろう、と思い、
あたりを見回すと建物のずっと上のほうに鳥かごがぶら下がっていた。
私は、一緒にいたTさんに「あそこに鳥がいる」と教えた。
ふたりで口をぽかんと開けて、鳥かごを眺めた。

香港では魚と鳥はポピュラーなペットだとガイドブックに書いてあったけれど、
気をつけて建物を見て歩くと、
確かに窓から張り出した小さなベランダに鳥かごを置いている部屋がたくさんある。

それで、香港っていいな、と思って。
こういう街に2、3ヶ月いるのもいいな、と思って。

人を好きになるのも、街を好きになるのも、
実際はその程度の―他人が聞いたら意味不明の―ごく個人的な理由なんじゃないかと思う。
理路整然とした大義名分を、よどみなく口にする人もいるけれど、
私はそういう人は少し嘘をついていると思う。
うまく説明できないことばかり。
書いても書いてもそう思う。




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このひとは、どうして、こういつも、
静かで、驕ってなくて、個人的で、
うそをついてなくて、恥じらいと、節度をわきまえた
文章が書けるのだろう。。




「人を好きになるのも、街を好きになるのも、
実際はその程度の―他人が聞いたら意味不明の―ごく個人的な理由なんじゃないかと思う。
理路整然とした大義名分を、よどみなく口にする人もいるけれど、
私はそういう人は少し嘘をついていると思う。
うまく説明できないことばかり。
書いても書いてもそう思う。」




理路整然とした大義名分、というのは、

わたしが、日々やっつけている仕事でつくろう言葉で、
あったり、デザインであったり、
あるいは、社会に対する意見であったり、
ひとに対する助言であったり。。

ただ、説明できた、とか、うまく言えた、とか、
だいたいこんな感じでしょ、とか、
思ったことは、ない。

そう思ったら終わりではないのか。。

いつも、こんなもんじゃない、まだまだ、と思う。



会社で、浅はかな断定や、浅はかな自信や、
浅はかな確信に、もとづく発言に、たびたび出会う。

あぁ、もったいないな、と思う。
ここでこのひと、終わりじゃん、なんて思う。
で、すぐに自分の、浅はかさを正す。





説明できない、から、

作家の文章は、
ダンサーの軌跡は、
音楽家の旋律は、
研ぎすまされてきた。


説明できない、というのは、
なんて苦々しくて、
なんて素晴らしいことか。
# by ayu_cafe | 2010-04-20 22:29 | 一生勉強。 | Trackback | Comments(6)

今日で会社をやめる女の子に送ったメール。

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ご結婚を機に今日で退社する
同僚の女の子に送ったメール。




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○○様

お疲れさまです。


○○さんが、入社して、3階で新人として
挨拶したときのことを覚えてます。

「いっしょうけんめいがんばりますので
よろしくお願いします」

って言っていて、なんてまじめな子が
入ったんだろうと思いました。


あと、道ですれちがったときも、
○○さんが止まっておじぎしてくれたことがあって、
そのときも、その丁寧さに驚きました。


わたしは、仕事ではあんまりからめなかったし、
これから、管轄もひろがって、仕事の心意気のこととか
いろいろ話せるかな、と思っていたので、ちょっと残念(笑)


ただ、「いっしょうけんめいがんばりますので
よろしくお願いします」と、丁寧なおじぎは、
わたしの中で、ずっと残っていくと思います。


そして、これからわたしが、やる仕事、会う人に、

「いっしょうけんめいがんばりますので
よろしくお願いします」と、
丁寧におじぎをしていきたいと思ってます。


○○さんと一緒の場所で働けた収穫です☆



長文すみません。
すまペンの展覧会も来てくれてありがとう。

お幸せに〜!


お疲れさまでした。


相澤 歩






***********************








わたしは、クラク、クロイ性格で、
花を愛でる資格もないような人間なのですが、

だからこそ、
花のきれいさに、心底、心奪われるのかもしれません。

だからこそ、
「いっしょうけんめいがんばりますので
よろしくお願いします」と、
丁寧におじぎをしていきたい、と思うのかもしれません。


罪から救われようとして、お祈りするみたいに。

出会うひとに、お別れするひとに、
指針をもらいながら。
# by ayu_cafe | 2010-04-19 23:33 | 仕事もしてます | Trackback | Comments(2)

わたしのプロフィール。

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《わたしのプロフィール》



ここで育ちました。

ここで暮らしています。



おわり。












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※もみから伝言です。
「ハナガサイタヨアソビニキテネ」

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# by ayu_cafe | 2010-04-16 00:04 | 花と樹と庭のこと | Trackback | Comments(8)

一日中、ネマキでサクラを眺めている。

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毎年、サクラの話題が微妙な時期になるころ、
少し遅れて庭の桜は満開になる。


オオシマザクラ、ヤエザクラ、ソメイヨシノの
順番かな。


忙しかった週の週末は、たいがい廃人のようになっているので、
ぼーっと一日中、部屋からネマキでサクラを眺めている。


桜はとても虫がつきやすい。
葉もまめに落とし、風通しをよくする。
消毒をする。できれば、えだも落とす。

虫が落ちたりすると、
桜のしたの他の植物が育たない。

よそでも、たいがい桜のまわりは、桜しかない。


うちでは、そこをなんとか、
枝をまめにおとしたり、消毒したりして、
他の植物と一緒に咲かせている。




お花見。
一日中見ていると、光によっていろんな見え方をする。
朝、午前、午後、夕方。凄く変化する。
必ず、ベストな光の時間がある。

旅行で、通り過ぎる景色にも、たぶん、かならず、
ベストな光の時間があるんだろうな。



お花見。
基本的には、この桜を一年中みている。
咲きっぷり、散りっぷり。散った花びらが庭を覆う様子。
青葉が繁れる様子。新緑。夏の風にゆれる。大きな影をつくる。
紅葉。落葉。
冬枯れ。
冷たい空に描かれる鋭い枯れ枝。
そして、芽生え。


ずっと見てる。
たぶん、ずっと見てなければ、
見たことにならないのかも。
花は、咲く時だけがはなではないのかも。


ことしも、「お花見」をした。
ことしも、「お花見」をしている。









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# by ayu_cafe | 2010-04-15 01:40 | 花と樹と庭のこと | Trackback | Comments(8)

宮﨑あおい,オアフ,ハワイ

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いま、発売してる「フラウ」。
宮崎あおいさんのハワイ。

お、ラニカイビーチ。
やっぱ、ここ、いつも風強いんだなあ。。



ポルトガルから帰ってきたあと、
蒼井優さんの「ポルトガール」が出たけど、
こんどは、宮崎あおいさん。。


むむむ。。つけられてる。。。
(↑なわけない)



カイマナビーチ。
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夕暮れの水平線に船のシルエットがきれいなんです。。







ラニカイビーチ。
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フラウには、
「駐車場もシャワーもビーチハウスもない隠れ家的なビーチは、
住宅地の間にある小道を通っていくと突然、目の前に現れる。」
って書かれてて、いますぐまた行きたくなる。
(行かれる方、近隣の方にご配慮を。。)







クアロア
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今度は馬にのりたいなあ。







カネオヘ湾
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この日は、めちゃ揺れて、
死ぬかと思いました。
でも、この写真は、フラウより、海きれいかも。。てへ。






っていうか、すれちがってた?








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フラウには、小さなポストカードマップがついていて
素晴らしいんです。


保存版。










ちなみに、宮崎あおいさんのシゴトで
好きなのは、これとか。



CMとして素晴らしい。リップスライムの
この曲も最高。





あと、やっぱこれは、
とんでもない。生き物として。
へこんだときの頓服薬。








映画は、これが好き。暗くて。
よしもとよしともさんの
原作は、何度読んだかわからない。











同時代のちょっとしたシンクロ。
(てか、単なるミーハーか。。笑)







*oahu,hawaii*
# by ayu_cafe | 2010-04-14 08:11 | oahu,hawaii | Trackback | Comments(2)

海の朝食。 *ベランダ,モアナサーフライダー*

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いろいろ、理不尽な目にあいながら、
たくさん仕事して、
いろいろ、みっともない失敗をしながら、
たくさん仕事して、
いろいろすれちがってしまったりしながら、
たくさん仕事して、


妻と両親と、ハワイに来れた。
海辺のテラスは、カチカチと幸福な食器の音がして、
海は、こわいくらい蒼かった。
樹齢100年のバニアンツリーのしたで、
しろいつがいのはとが朝の散歩をしていて、
ひとけのないワイキキビーチに、
最初にくつろいでいるのは、椰子の影だった。



すべてのことはむだではなくて、
むしろ、もっと学べたはずだった。





今日のツイッターの名言botでは、
こんなフレーズを選んでいた。



「人生には解決法なんてない。
ただ進んでいくエネルギーがあるばかりだ。」
(Antoine de Saint-Exupery)







今日も、実り多い、たんなる途中の一日。







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*oahu,hawaii*
# by ayu_cafe | 2010-04-13 09:38 | oahu,hawaii | Trackback | Comments(4)

「制度からこぼれ落ちていく個体の悲しみを書け。それが文学だよ」見城徹

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東北芸術工科大学 文芸物語プロジェクトというブログの


Little Red Rooster を探して 最終回

という記事から転載させていただきます。



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もう15年ほど前のことになりますが、ぼくは"Little Red Rooster"を、日本語で歌えるようにするために英語の詩を意訳しました。
 誰かが(川西蘭さんか中森明夫さんになると思います)、授業でも担当することになると思いますが、メロディに乗せるための「詩」というものがあります。これは、普通の訳詞では字余りになってしまったりしてダメなのです。

 こんな歌詞ができました。



Little Red Rooster

 俺は小さな赤いルースター
 時なんて告げない怠け者なんだぜ
 俺は小さな赤いルースター
 時なんて告げない怠け者
 おまえのこの庭をメチャクチャにしてやろうか?

 犬どもが鳴いてるようだ
 俺様を探してる
 犬どもが鳴いてるようだ
 俺様を探してる
 どきやがれ道を空けろ 俺様は出ていくから

 もし、もし、もし俺のルースターを見たら
 帰ってくれと伝えてほしい
 もし、もし、もし俺のルースターを見たら
 帰ってくれと伝えてくれよ
 どうにもならないのさ
 あのクソッタレなしでは

 俺はルースター 俺はルースター
 リトル・レッド・ルースター
 あんたもルースター


 この歌の主人公である「小さな赤い鶏」は、怠け者だし乱暴者だし、ちょっと困った存在ではあるのです。
 しかし彼が消えてしまうと、農園主は「どうにもならないのさ、あのクソッタレなしでは」という気持ちになります。

 じつは「小さな赤い鶏」は、ぼくら全員の胸の奥底に棲んでいるのではないでしょうか? 彼がいるからこそ、われわれは小説を読んだり、書いたり、音楽や絵画に感動したりするのです。

 学校や社会のモラルや価値基準に合わせているだけでは、多くの人間は窒息してしまうでしょう。「小さな赤い鶏」は軽々とそんな「嘘」のベールを見破り、「おまえのこの庭をメチャクチャにしてやろうか?」なんて物騒なこと言います。





 皆さんはまだご存知ないかもしれませんが、『旧約聖書』に「放蕩息子」というエピソードがあります。あそこに出てくる放蕩息子も、この「小さな赤い鶏」のような存在なのです。

 ぼくがまだ20代の頃、3つ年上の見城徹さん(「文芸学科」顧問に就任予定)が、ぼくの下手クソな小説の原稿を読んでこんなことを言いました。

「制度からこぼれ落ちていく個体の悲しみを書け。それが文学だよ」

 なかなか難しい表現なので、皆さんはまだこの言葉の意味が理解できないかもしれません。それでもかまいません。しかし、ぼくが知っている限り、見城徹さんのこの言葉こそは、生きた小説というものの本質を最も的確に表現しているのだとぼくは今でも思っています。

 制度からこぼれ落ちていく個体の悲しみ──それこそがすなわち、「小さな赤い鶏」のことなのです。この厄介者がいるから、心から愛してくれるAさんの愛を受け入れればいいのに、どうしてもBさんを諦めきれない…というような恋愛の悩みが生じます。
 合目的に考えれば、誰がどう見ても突拍子もない人生の決断をしてしまいます。
 それが、でも、人間らしいということなのです。

 皆さんはこれから創作に立ち向かうことになります。スキルは、上達していくと思います。難解な表現も理解できるようになり「制度からこぼれ落ちていく個体の悲しみ」なんて言葉も、ふんふんと聞き流せるようになるかもしれません。

 しかし、どんなに腕を上げても、文学に限らず、絵画や音楽やゲーム作品や、すべての自分の作品の奥に果たして「小さな赤い鶏」が存在しているだろうかと不断に自問してみるべきです。もしも彼があなたという農園から出て行ってしまっていて不在ならば、どんな素晴らしい文章と構成をもった作品でも、それは単なる「お話」であって「小説」とは言えないのです。

 いやいや、ちょっと先走ってしまいました。
 その前に、十代であるあなたの胸の奥底に、ちゃんと一羽の「小さな赤い鶏」が存在しているかどうか、たしかめてみるべきだと思います。小説を書くということは、あるいは芸術作品に立ち向かうということは、「彼」との二人三脚でなければ成立しない長い旅なのですから。

 いましたか?
 それは、よかった!



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その鶏があばれまわるほど、

社会、会社、家族、モラル、日々という「制度」が、

なにかすこし、神聖なもののように感じてくる。


たぶん、鶏はあばれまわるだけだと死んでしまう。


たぶん、「制度」が鶏を生かすのかも、

あるいは、「制度」というものによって
鶏のいる自分が、保たれるのかも、



って、あー朝イチの打ち合わせ
間に合わない〜〜〜
# by ayu_cafe | 2010-04-12 09:15 | 一生勉強。 | Trackback | Comments(4)

わたしのこの心に 光る水色は、いついつまでも 変わらない 空と海の色 *UA/水色*





想いは水色の雫の中で揺れてる
三日月が手のひらに浮かぶ この夜に
今ひとたびの 言葉だけ 貴方に伝えましょう

溶けては染みわたるほのかな夜の吐息よ
愛しい涙色の声で泣く虫と
闇夜を照らす星達の 心に憧れて

悪戯な花びら
遥か遠い雲の便り

わたしは水色の翼 大空に広げ
疲れて飛べない日は 大きな木に止まり
愛の言葉と風の唄 貴方にうたいましょう

季節は限りなく回り続けてるけど
わたしのこの心に 光る水色は
いついつまでも 変わらない 空と海の色
思い出よ ありがとう

白い波が 頬を濡らす
青い地球がまぶしすぎて







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# by ayu_cafe | 2010-04-10 13:59 | ayuCafe Music Bar | Trackback | Comments(0)

ねこものまね *ひとのはなしをなにかしながら聞くひと*

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ひとのはなしを、なにかしながら聞くのは、やめなさいっ




ちゃんと、座って、



そうそう。






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まだ、なにか気になってるだろ!
# by ayu_cafe | 2010-04-09 08:13 | ayuCafeねこものまねshow | Trackback | Comments(7)

ねこの郵便屋

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ねこの郵便屋は、郵便のかばんを
たすきがけにしたまま、
バスの停留所のベンチに
ぐったりと座っていました。


ねこの郵便屋は、なんだかとても疲れていました。


今日は昨日のただのくりかえしで、
明日は今日のただのくりかえしなのではないか、
といったことを、ねこの郵便屋は
ぼんやり考えました。


かばんの中には、小包がひとつだけ入っていました。
その小包も、自己主張の強いきつねの同僚のように、
はやくはやくと、ねこの郵便屋を
せかしているように思えて、
気が重くなるばかりでした。


ねこの郵便屋は、
うんと遠くへ行きたい気持ちになりました。


バス停にバスが来ると、
ねこの郵便屋は、ふらふらとバスに乗り込んでしまいました。


バスにはすこしの乗客が乗っていましたが、
ねこの郵便屋に気をとめるものはいませんでした。
運転手だけがちらっとねこの郵便屋を見ました。


ねこの郵便屋は、窓側の席に座りました。

それからずっと、バスにゆられながら、
窓の外を眺めていました。



窓の外には、すすき野原が広がっていました。
すすき野原は海のようにうねり、

こちらまで、あふれてきそうだ、

とねこの郵便屋は思いました。



やがてだんだん日が暮れてきて、
すすき野原は、赤く輝きながら
夕暮れをなでるようにうねっていました。


日が暮れてしまうと、澄んだ星空がひろがりました。
すすき野原は、まだまだつづいていて、
こんどは、澄んだ星空をなでるようにうねっていました。




ねこの郵便屋は、ふと

このバスはどこまで行くんだろう

と不安になりました。


車内を見渡すと、もう誰ものっていませんでした。

ねこの郵便屋は、こわくなって運転手の方に行こうと
席を立ち、前へ前へと歩いていきました。

けれども、バスは、まるで長い長い廊下のようで、
はるか前の運転手のところには、
歩いても歩いてもたどり着けません。


バスの両側では、月の光に照らされたすすき野原が、
嵐の夜の海のように黒々と激しくうねっていました。



ここは、もう別の世界なんだ。。


ねこの郵便屋は、あきらめて席に座りました。




しばらく窓の外を見ていると、
嵐の夜の海のようなすすき野原の向こうに、
わずかな明かりが見えてきました。

バスはだんだん明かりの方に近づいていきました。

その明かりは、小さな家の明かりでした。
玄関先の郵便ポストの前には、
小さな女の子が立っていました。

大事な郵便をずっと待っているようでした。



ねこの郵便屋は、急に思い出しました。


この小包は、あの家に届けるものだ。


ねこの郵便屋は、あわててバスのブザーをおしました。
バスはとまりドアがあきました。


ねこの郵便屋は、バスをかけおり、
嵐のようにうねるすすき野原を、
明かりの方に、ぐんぐんすすんでいきました。


うしろで、バスが行ってしまう音が聞こえました。
すすき野原は、ねこの郵便屋を、
とおせんぼするように、
目隠しするように、
うねっていました。

ねこの郵便屋は、すすき野原をかきわけかきわけ
ただただ女の子に小包を渡すために、
明かりの方にすすんでいきました。








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# by ayu_cafe | 2010-04-08 00:32 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(10)

仕事のこと。ある春の一日。虹ヶ原ホログラフ。

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行きの電車。
浅野にいおの「世界の終わりと夜明け前」を読む。

このひと、批判もよく目にするけど、
批判されるのすごくよくわかる。

でも、落ち着く。線が好き。
シルエットになった電線の絵が素晴らしい。
好きになるものすべて、正しくなくてもいいのでは、
好きになるものすべて、同意が得られなくてもいいのでは、
と思う。



+++++++++++++++++++++++++



朝、
大きめのノートが欲しくなって、
恵比寿のsmithで水色のきれいな色のノートを
買ってから、クライアントさんへ。


11時、ひとつ目の会議。

10年以上も担当させていただいてるクライアントさん。
広告のゆきづまりのはなし、世の中のゆきづまりのはなし、
最近の若いひとのはなし、いつもいろいろはなして、
今後の方向性を探る。

文句ばかり言ってるのは、
さえない飲み会みたいでやなので、
ぜったい新しい方向性の提案をして帰ろうとおもって、
話しだしたら、びっくりするくらい場が、
盛り上がってしまって、
相澤さんがそこまでいうなら、みたいな流れになり、
こわくなる。でも、やってみる。
お金もらってるから、ルーティンみたいなこなし仕事は
失礼すぎる。



+++++++++++++++++++++++++



同僚と台湾屋台料理みたいなところで、お昼食べて、

帰社後、14時、ふたつめの会議。


大きなプロジェクトの英語で書かれた複雑な資料読み解き。
スタッフがすすめてくれている作業に合流。

霧のなかから、島影がみえてくるみたいに、
だんだんと概要が見えてくる。ロープレみたい。
やってみないとわからない。
やってみるとわかってくる。

こんかいは、いろいろな面でこのプロジェクトは
大変だと、スタッフと話していて、
そうとうな覚悟で臨もうと、意を決す。

「剣岳プロジェクト」と名付けてもいいかもしれない。



+++++++++++++++++++++++++



一時間で中座させてもらって、15時、3つめの会議へ。

あたらしいプレゼンの社内オリエン。
4月からの組織変更をフル活用し、20人くらいの
チーム編成。社長も参加。
いつもとちがう顔ぶれ。
人数の多い会社の醍醐味。



+++++++++++++++++++++++++



16時、4つめの会議。

翌日の会議のための資料をつくってくれてる同僚と。
これも大きなプレゼン。
わたしより年上の方がほとんどの、
長いキャリアのあるベテランばかりが、ゴージャズに集う、
なかなかこってりしてるメンツで。
(ポトフくらいこってり)

はじめて仕事させていただく方がいて、
その方の案の出し方がめちゃくちゃ熱くて、
案も面白くてとても勉強になる。



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終了後、17時、5つ目の会議。

4月から新設された副部門長のひとりとして、
部門会議に参加。

80名くらいのスタッフの稼働状況と
仕事の進行状況、売り上げを社長と検証する。

やはり、仕事も以前より減ってきていて
このご時世、とてもとても厳しい。
いま、実際、ひまなひともいそうだし。。
(なぜか、わたしのまわりはずっと忙しいけど。。)

うちの部は、仕事をたすきがけして
フル回転でこなそうとしているので、
スタッフィングも難しい。

現状把握といろいろないろいろな配慮。

うーむ、考えること、やることたくさん。
あと慣れも。


そして、危機感。
(すべての会社、仕事には必ず危機感があるとはおもう。)



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終了後、18時、6つ目の会議。


クライアントさんに来ていただいて、
入稿前の校正。バイブル資料との照合会。

このクライアントさんのリーダーの方、女性なんだけど、
決断と、効率と、丁寧と、現場想いと、責任感の
見本みたいな方。
こういうひとに対しては、まともなクリエイターなら、
必要以上にがんばってしまう。


クライアントさんにも、社内にも、世の中にも、
いろんなひとがいる。
いいひとも、へんなひとも。
当然の比率。
(わたしはへんなひとのほう。)


荒海みたい。

小舟にしがみつく。



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20時、

制作しているメルマガの校正をして、
別の仕事の進捗をスタッフから聞いてから、

7つ目の会議。

同僚に各仕事の状況やら聞く。



21時、

8つ目の会議。

明日のこってり会議(ポトフ会議)の資料の検証。



あ〜自分のいくつかの作業できてない。
明日倍速でやろう。



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帰りの電車。
浅野にいおの「虹ヶ原ホログラフ」を読む。

あんまりなはなし。
おすすめできない。

でも、なぜか落ち着く。

こういう気持ちがささくれた日に、
「海街ダイアリー」みたいな
正しい傑作って読めなかったりする。

時として、ゆがみは救いになる。
自分の静けさを取り戻せる。

好きになるものすべて、正しくなくてもいいのでは、と思う。

正しくない、ゆがんだおはなし
つくってみたい。




そんな、ある春の一日。








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# by ayu_cafe | 2010-04-07 01:07 | 仕事もしてます | Trackback | Comments(8)

「バレエのお稽古は、バレエらしいステップをこなすことじゃなくて、バレエが踊れる体を育てること」

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YURIエコール・ド・バレエ・コンテンポラ主催、 
アンシャンテ原宿バレエ&ダンス講師の田中ゆりさんの

ブログ Dansons ensemble ! の

教える上で大切にしてることという記事から
ご快諾いただき、引用させていただきます。
YURIさん、ありがとうございますね。



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明日はジュニアちゃんの特別講習会! 個人面談の準備もあるのに
それなのにblog更新なんてしてるのは

私が教える上で大切にしていることは 
間違ってなかった(涙)

という確信が 生徒をみながら実感ができて

それで内心ちょっと興奮しているから

私は
バレエのお稽古は バレエらしいステップをこなすことじゃなくて
「バレエが踊れる体を育てること」だと考えています

「バレエが踊れる体を教育する」ために
ステップを使っているのです

ステップをこなすことに目的を置きすぎると
動かす脚のために軸足を犠牲にするような使い方をしはじめます


下っ腹やウエストを使って体を引き上げることや
脚を外旋(アン・ドゥオール)することは

「状態(形)」 ではなく 
「使い方(運動)」 なんです! 

大人からバレエの人もここの所が
体の感覚を伴って理解できてない間は
努力がなかなか実を結ばない時間が過ぎてゆきます

「体の感覚を伴って理解」という点が時間がかかるのです
でもここを越えるとそれまでの努力は次々と開花するんですよ~!



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「バレエのお稽古は、
バレエらしいステップをこなすことじゃなくて、
バレエが踊れる体を育てること」



これは、なんていい言葉、真理なんだろう。


デザイナーは、コピーライターは、
デザインらしいデザインを
コピーらしいコピーをこなすことが目的ではなく、
デザインやコピーがつくれる体を育てることが重要。



これ、すべての仕事に言えるし、
ひととしてのあり方にも言える。

やさしいそぶりが上手になることではなく、
やさしくなれる体を育てること。



つまり、結局は、体が資本。
体とは、こころの姿勢も含めて。
その人の中に、人間が、良いものを目指す精神が
育っていなければ、
けっきょくある程度のものしか生み出せない。




就職の面接とかで、経歴、趣味、知識、なんかを
聞かれるけど、結局聞きたいのは、人間力みたいなこと。
スペックではない。


逆に言うと、ひととして、ひとらしく育ち、
さらに育とうという思いがあれば、
それが、なにかをなしとげる一番の近道になるし、
たいがいのことでも、気安くへこんだりしない、はず。






バレエダンサーと書くだけで、
背筋がのびるのに、
この言葉は、さらに背筋がのびる。
(もともとすごい猫背でして。。)





ここも凄い。


“「状態(形)」 ではなく 
「使い方(運動)」 なんです! ”



つまり、形だけをつくろうするのではなく、
ある意志にもとづく運動が、美しい形になる。



う〜〜ん、やっぱり体というものには、
あるいは、体をつかうダンス、スポーツというものには、
現実的に機能する真理がものすごくつまってる。





ごめんなさい、今日の記事もすごくよかったので。。



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ものすごく想像力があっても 細やかな感情や 
知的なアイディアがあっても
それを伝えるのには 体や言葉を駆使しないと 
他の人には伝わらないですよね

表情や 話す書くという行為をひとつとっても

ぜんぶ必要なのは 体ですよね 


自分の体にコンプレックスが全く無い 
という人は少ないと思いますが

ジュニアちゃんが 自分の体に興味をもって 
大好きになって
進化させる努力ができるようになりますように!



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わたしは、ジュニアちゃんではないけど、
自分の体に興味をもって 大好きになって
進化させる努力をしたい。


わたしは、人間性を重ねて、書きすぎたけど、
たんじゅんに、肉体というものの健康が、
あらゆる打破の鍵になると思う。


体に耳をすませ、学ぶことはたくさんあるし、
体の進化は、生活や精神の進化にもなると思う。


落ち込むときって、体の調子悪いとき多いしなあ。。



体や、自然、ってつくづく興味深い。

年を重ねて、庭の植物を四季の間ながめていて
じんじん感じるし、体や自然への興味深さは、
ハワイという場所にいって決定的になった。






ちなみに、この写真は、会社の前で撮った。
こういうものが、いちばん、
デザインや、コピーを育てる気がする。


ちなみにわたしは、いまだに、こういう花に、
緑に、祖母に祖父に、妻に、両親に、ボブディランに、
シスレーに、アントニオーニに、ゲンズブールに、
ストーンズに、カルティエブレッソンに育てられ続けてる。

ある意味、幸せ、ある意味、ゴージャス☆







それにしても、


「体を育てる」


っていい言葉だなあ。
# by ayu_cafe | 2010-04-06 01:09 | しごとのことば | Trackback | Comments(2)

「世界が変わったわけじゃない。ちょっとつまらなくなっただけだ」ジャックスパロウ

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パイレーツオブカリビアン。


ジャックスパロウが、ある島で、

かつて自分を飲み込み、死後の世界に追いやった
巨大タコの怪物、クラーケンの
無惨な死骸と出会う。


一緒にいたバルボッサが、
「世界も変わっちまったな」って言うと
ジャックがこう言う。


「いや、世界が変わったわけじゃない
ちょっとつまらなくなっただけだ」




う〜〜〜〜〜〜〜〜〜む、
これって、なんでも瞬時に検索できて、
いろんな情報が手に入って、わりとなんでも
わかったような気になって、管理されてて、
森も、未知の地も、神話も、魔法も、
信じづらい現代に対して、
ジャックが、ジョニーデップが言ってるのかも。





わたしにとって、

死ぬ気で働いてひーひー言いながら維持している
「ブラックパール号」と名付けた
アルファロメオスパイダーは、

世界にはワクワク、ドキドキすることが絶対にある、

と信じるあかしや、のろしみたいなもの☆


燃費、収納量、維持費、
「普通」の感覚で言うと負の要素ばっかり。


でも、交差点をゆっくり、スルーンと曲がる、
シフトをセカンドからサードにスパンとほうりこんで
クルマがフワッと加速する、あの悦楽。

それって、希望になる。勇気になる。



ジャックが言うように、
ちょっとつまらなくなっただけで
ほんとは、世界はなにもかわってない。


たとえば、
オーベルシュルオワーズの鋭い新緑の輝き。
オンフルールの朝日に燃える旧港の輝き。
マルモッタンのベルトモリゾの部屋の輝き。
セルビアのユダヤ人街の山吹色の壁の輝き。
ハバナのクラブでシンコペーションに合わせて
揺れる長く美しい手足の輝き。
ロスカボスの布屋さんでずらりとそろった色彩の輝き。
オルビエートのドウモの入り口の彫刻に射す光の輝き。
ラニカイビーチの透明な波のしたの白い砂の輝き。

そして、冬の庭に春を告げる福寿草の輝き。


たとえば、
美しい演奏、美しい言葉、美しい映像、美しい造形。
美しい作品、美しい仕事。


希望になる勇気になるもの。


それに、きっと出会える。
ジャックスパロウのように
飄々とあきらめなければ。
# by ayu_cafe | 2010-04-05 00:50 | ayuCafe 映画 Bar | Trackback | Comments(2)

石田さんちの大家族、凄い。そしてハタラクってカッコいい。

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さっき、やってた石田さんちの大家族、凄かった。


大家族の三男が、大きくなって、
映像制作会社に勤めるんだけど、
3年目になって、やめたいって言う。

お金もないし、この仕事に希望もないし。


それを、ずっとちいさいころから
家族みたいになって一緒に生活しながら取材してた
ディレクター、カメラマン、音声さんが、
なんどもひきとめる。


(以下、正確ではありません)


「つらいことは、もちろんあるし、
金もないし、精神的に、肉体的に限界になることもある、
でも、一年に一回くらい、
“このまえのあれ、よかったですよ”っていわれる
とすごくうれしい。
そういう楽しさを知らないうちに、この仕事を
見限るのは、とても残念なんだよ。」


「もめたら負けだよ、ぐっと我慢して先行かないと」


「金はおれもぜんぜん不満なんだけど、おれは、
たとえば、この家族の番組つくってて、
金で買えないものをうんともらってるんだよ、
金だけじゃないんだよね。」


(おれが言われてんのかと思った。。)


しかし、ゴールデンに外注制作会社のディレクター、
カメラマン、音声さんが
ここまで、出てきたことあっただろうか。
ここまで、この過酷な仕事について熱く
語ったこと、あっただろうか。



今回の石田さんちの大家族のテーマは、「仕事」。


この三男と熔接炉で働く四男の会話。

三男
「なんでそんなにはやく、まじめに仕事につくの?
遊べないじゃん?」

四男「遊べるよ。いや、忙しくて遊べないか。
でもね、仕事楽しいんだよね、仕事が遊び?」



大家族のお父さんの仕事ぶりも出てくる。

外資系化粧品会社の営業で外回りをしてる様子。

片道2時間の通勤電車、深夜のがらんとした
車内で外を見てるお父さん。


な〜んか、いじょうにかっこいい。






過去の映像で、
映像制作会社の試験日、密着して、ディレクターが、
会社の玄関までいく。途中道に迷う。
家族同然のディレクターが、三男にいう。
「お前のことなんだから、ちゃんと道くらい
調べとけよ。」
三男が笑う。



番組の最後、
おなじ道を三男が、退社の挨拶に行く。
ディレクターが同行する。
「3年前、この道、歩いたよね、覚えてる?」
とディレクター。

「覚えてる」と三男。



挨拶後、最後に、喫茶店で二人でお茶をする。

ディレクター
「いろいろ言ったけど、(取材を越えてるし)
おれは言える立場じゃないし。。」


すると三男が言う。

「いや、言う権利はあるよ、
クソガキのころっからずっと一緒だったんだから」



そして、苦々しく、だけど
熱をおびたまま番組は終わる。





そういえば、別の場面で、ディレクターが
後輩に言ってた。

「これは、取材だけど、おれは、
取材者として、あの家に行ってない。」




この四月のこの時期に、
働くってことをこんなに熱く語る
ゴールデンの番組って。。


世の中って、病んでて、こわくて、
政治に期待できなくて、無気力で、
礼儀や、筋がぜんぜん通らない場所だった気がするけど、

こんな番組つくってるひとたち、いるんだ。
こんな仕事してるひとたち、いるんだ。


最後の三男の発言で、この番組は、
ディレクターもふくんだ「大家族」の
「生きてはたらく」ことのドキュメンタリーになっている
ことがわかる。


凄い。


そして、ハタラクってかっこいい。
# by ayu_cafe | 2010-04-03 21:45 | ayuCafe TV Bar | Trackback | Comments(10)

千鳥が淵_Havana

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友人は、キューバ人にしては、めずらしくサルサで踊らない。
踊れないのでない。踊らないのだ。
カーサ・デ・ムジカで働いている知り合いによると
以前は、よく女の子を連れて、踊りに来ていたらしい。

旧市街の小さな公園。生い茂った樹々の木漏れ日が、木製のベンチの上で揺れている。
落ち着いた話し方の彼が、ゆっくりと煙草を吸いながら
行ったことのない国の話をするのを聞いていると、なぜか、いつも気持ちがなごむ。

「日本には、エレクトロニクス産業の研修で、何度か行ったんだ。
 もともと外国の言葉を覚えるのが好きで、英語と日本語がすこしできたから、
 よく海外研修のメンバーに選ばれてた。
 向こうに行く度にコーディネートしてくれる日本人の女の子が、
 Beny Moreのファンだったから、日本で売ってないCDを
 おみやげにあげたりしてるうちに仲良くなった。
 ある晩、なにかのパーティを彼女と抜け出して、タクシーでサクラを見に行った。
 ええと、あの場所は、チドリガフチっていったかな。
 日本の王族が暮らしている、ものすごく大きな城跡のようなところを、
 河みたいな水路が囲んでいて、そのあたり一面にサクラが咲いてるんだ。
 咲いてるっていうような、なまやさしい感じじゃないな、
 火事や空爆みたいに、あたり一帯に信じられない大きな事件が起きてる感じだった。
 しかもそれが静かで、とてつもなくきれいなんだ。なんだか気が狂いそうになったよ」

向いのベンチでは、お腹の大きな女が、のんびりと本を読んでる、
チドリガフチのサクラのことを想像してみる。彼が続けた。

「サクラの下に腰掛けて、彼女は、来月結婚するって話しだした。
 おれは、ずっとサクラを見上げてた。
 彼女は、夜の空いっぱいにひろがるサクラを見上げながら
 止まってる雪みたいねって言ったんだ。
 雪って本物を見たことないけど、こんな感じなのかな、って思ったよ」

アンボス・ムンドスのカフェテリアから、ピアノとフルートの演奏が聞こえてくる。
彼は、それを聞いて思い出したように付け加えた。
「ひとりでタクシーをひろって、ホテルへ帰る途中、ラジオでBeatlesの〈Girl〉
っていう曲がかかってた。ため息みたいな曲だな、と思ったな」
それから二人、それぞれ黙って煙草を吸いながら、〈Girl〉という曲のことを考えた。




Chidorigafuchi_Havana
# by ayu_cafe | 2010-04-02 07:26 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(6)