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フェンダーツインリバーブの真空管がほこりを焦がす匂い。

フェンダーツインリバーブの真空管がほこりを焦がす匂い。_b0072051_5584744.jpg




仕事が終わったあと、明治通の信号を渡っているとき、
「相澤君」と声をかけられた。

「君」って久しぶりな呼ばれ方にどきっとしつつ振り返ると、
リードギター君だった。


近くではたらいていることは知ってたけど。
その場で名刺交換などして、メールちょうだいよ、ご飯行こ、
とか、次長か、すごいねー、ま、小さな会社だからね、
なんてことをちょっと話して別れた。



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数日後、ランチして、いろいろはなした。
さすが、めちゃはなしがはやい。
ガエル・ガルシア・ベルナル、いいよね、
天国の口、終わりの楽園、見た?
見た見た、すごい好き。
最後、ザッパの曲かかるじゃん、いいよね。
ストーンズの映画、すごいよかったよ、
サントラは買ったけど、まだ観てないんだよね。。
とかとか。。



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彼とバンドをやってたのは、もう10年以上前。
その頃は、音楽のことしか考えてなかった。
旅行も、写真も、ましてや広告なんて、
まったく興味がなかった。
どっぷりと音楽を聞いて、毎週2回練習スタジオに入って、
月に1回から2回都内のライブハウスに出てた。
音楽以外の仕事をするなんておもいもしなかった。
(ま、ちなみに、ぜんぜんたいしたことないんです。。)



出てたライブハウスは、
新宿JAM、
代々木チョコレートシティ、
下北沢屋根裏、
吉祥寺曼荼羅、
西荻ワッツ。。とかとか


編成はわたしがVoとG
あと、リードギター君とドラム野郎とベース君。

しばらくして、女の子とわたしがVoで
わたしがG、あとパーカッション君っていう
編成で、渋谷のtake off 7ってところに
しばらく出させてもらってた。



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ずっとわたしが曲や詩やリフをバンドにもっていって
オリジナルの曲をやってた。

練習ではカバーもやった。
リトルフィートのデキシーチキンの一曲目とか、
ミーターズとかのカバーとかもやってみてたけど、
今、思うと、セカンドラインファンクに手を出すなんて、
めちゃめちゃ無謀だ。。。


バンドでやりたかった音は、ファンクっぽいリズムよりのロックに、
セブンスコード(デミニッシュ?)って言うコードを使って、
ひろがりのある風景が見えてくるようなものがつくりたかった。

これは、おもにリズムの好きな曲だけど、
Curtis Mayfield の「Freddies Dead」とか、
Rolling Stonesの「Fingerprint File」とか、
Donny Hathaway の「The Ghetto」とか。。
Street Slidersの「Back to Back」って曲には凄く憧れた。
あとポールウエラーのソロの一作目、
イアンデューリー、スライストーン、スティービーワンダー。。

16ビートのモロファンクじゃなくて、
8ビートなのに、重く跳ねる感じ。。



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何千、何万と曲を聴いていくうちに、
だんだん自分はこれが好きなんだな、というのが、わかってきた。

わたしの場合は、
カーティスメイフィールドと
ダイナソーJrと
ブライアンウイルソンだった。
(↑めちゃくちゃ☆)


あとセブンスとファンクってことでいうと、
ブラジルのジョルジュベンや、MPBの音を
聞いたときは、まさに自分の大陸をみつけたような
気分になった。

3人編成のときは、トニーニョオルタや
エリスレジーナみたいなおおらかな
音楽をつくりたかった。


とにかくなにか風景を見たかったし、
見せたかった。


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バンドの練習では、最初の一時間くらい、ずっとジャムってた。

これが、もうたのしくてたのしくて。
ジャムというとギターソロ、かわりばんこ、
みたいなバンドもあるけど、
わたしたちは、ワンコードないし、ツーコードのみで
ひたすら、リズムと間を構築しようとしていた。


思い浮かんだギターリフではじめて、
そこにドラムとベースがあるリズムをつくってくれる。

バンドの真ん中に生きたリズムが生まれて、あとは、
みんなで、その生きたリズム(グルーブ)に対して、
リフやフレーズやハイハットのタイミングとかを
抜いたり、つっこんだりする。

誰かがなにかをすると、それに反応して
誰かがなにかをする、それがまた影響して。。
って感じで、いつのまにかおもいもよらない、
有機的なグルーブができる。
ふわっとからだが浮かんだような、
なんともいえない気持ちのいい感じになる。


気持ちのいい間とリフが、ここかな、と言う感じで
固定されると、あとは、それをくりかえしてるだけで
気持ちがいいし、どんどんどこかへ、
のぼっていくような気分になる。
(ま、うまくいった場合)

たぶんその間、バンド4人で、ものすごい生理的な情報の
交感をしている。

スタジオのあの匂いの中で。



椎名林檎さんが「丸の内サディスティック」という曲で
“マーシャルの匂いでとんじゃって大変さ”
って歌ってるけど、このフレーズ、
すごくよくわかる。

わたしの場合は、マーシャルではなく、
フェンダーのツインリバーブってアンプを
使っていたけど、このアンプのうらに真空管が
むき出しでついていて、スイッチをいれると熱くなる。

で、真空管にすこしつもったほこりが焦げる。
このかすかな焦げる匂いの中で、
4人で黙々とグルーブをつくる。




練習を終えて、飲みにいったりすると、
ぜんぜんはなしなんてはずまない。
むしろなんだか照れくさい。
もうたくさん「話した」から。。
明るいところが苦手な恋人みたいっていうか。。
うまくいってるときの関係性って
話す必要がない。



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実はこれ、いまやってる広告つくることとすごく似ている。

デザインの余白、書体の選び方から、思想、ねらいどころ、
フレーズ、その辺がものすごい近さで共有できるひととやるとき、
バンドでジャムってるみたいな感じがする。

あ、そうデザインするなら、こんなコピーどう?とか。。
こんなのどう?ここの余白いいね。とか。


で、やっぱり飲み会ではなしがはずまない。
むしろてれくさい。
っていうか、もう仕事をするだけで、
デザインをつくっただけで、
その時点で「話し終えてる」。


そういう無言の「会話」は、
遊んだり、飲んだり、まったりしたり、するより
なにより蜜のように楽しい。
(あくまでもうまくいく場合。。)



これが合わないと、延々と話し合いになってしまうことがある。
文字を105%拡大するかどうかで、
延々とはなすときがある。


こういう組み合わせはなかなか大変。



でも、うまく行くチームの交感のスピードはすごい。
素晴らしいスピードの波に上手に乗れてるような気分。




でも、時期がすぎるとその合う感じが失われてしまう
こともしばしば。ほんと生もの。

ものを一緒につくるのは、生理感覚の交感だから
うまくいくときは最高で、
うまくいかないときは最悪なことになる。
まあ、恋愛みたいに。。



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バンドが続かないのもよくわかるし、
バンドを止めたり、辞めたひとの複雑な心象も
なんとなくわかる。

わたしは、最後の最後にバンドを止めて、
週二回の練習とライブの予定が白紙になったとき、
正直なことを言うと、すごくほっとした。。



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会社のいいところは、解散しなくてもいいところかな。。
組織や仕事によってホールドされてる。
これがないと、個人同士のつながりだけ。
それだけで、感性全開のすりあわせを
毎回、一年中、やるのって大変だ。。



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ま、でも、いまだにプリンターから、
あたらしいデザインが出てくるときは、
バンドでどこかにのぼってるときみたいに
ドキドキする。

あの、ツインリバーブがほこりを焦がす匂いがしてくる。


やってることは、根本的には、たぶん同じ。

誰かとなにか、みたこともない風景を
世界に内緒で生み出して、
波のようなものにグイッと連れていかれたい。

わたしは、そういうことをずっと
求めているのかもしれない。



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ちなみに。。。。
少しまえ、クライアント様と
おつきあいカラオケをやっていた。

クライアント様の偉い女性の方が面白くて、
歌がへただったり、自分の好みに合わないと
イントロで勝手に消したり、
ただ歌がうまくても、音があってるだけじゃん、
って言ったり。。(音楽業界にもすこしいたみたい。。)

面白いなーと思っていたら、
夜中の3時くらいにベロベロに酔ったその
女性の方が、わたしが歌い終わったとき、
「相澤さんの歌って風景が見えんのよ」
って言ってくれてどきっとした。


企画書をつくっていても、
デザインをつめていても、
歌をうたっていても、
おはなしを書いていても、
なにか風景が見えるといいな、
と思ってやっている。


やろうとしてることは、
やりたいことは、
結局、昔から変わらない。
なにをやっていたとしても。。












(長い文、最後までお読みいただきありがとうございました。)
by ayu_cafe | 2009-10-23 06:43 | 仕事もしてます | Trackback | Comments(10)
Commented by けいと at 2009-10-23 08:27 x
JAM!屋根裏!曼荼羅!
そしてSliders!! くぅーっ(泣)

解散しないで欲しかった。。
でも↑こんな気持ちだったのかも、、と思ってみたり。
彼らは何も語らないけれど。。

でもでもやっぱり
今でもあの人たちのことを想うのです。
いつでも求めればすぐ演奏を始めて欲しかった。

清志郎だけは そうだった・・・ですよね?
Commented by TM at 2009-10-23 09:18 x
> 明るいところが苦手な恋人みたいっていうか

すごくわかります(笑)
たまに外食とかしてテーブル越しにかしこまっちゃったりすると、
正面から見る相手にすごい違和感感じたり。
ふだんは顔って、表情から気分を読むための符号だから。
体温とか匂いとか、重みとかなめらかさとか
そういう手ごたえのない、言葉と視線の交換は
「2人」じゃなくて「1人と1人」みたいで、相手がちょっと遠くなる。
声さえも、密度や流れ方が違ってる。

「1人と1人」を「2人」にするのって、
意識とか精神だけじゃない、
五感と、たぶん第六感のようなものも含めた
全体がにじみ合うことかなと思います。


風景は、「流れ」の1つの相かなと思います。
相手に伝わった流れが、相手のこころのなかである風景になる。
受け手ごとに異なる風景に。
そしてその風景は、その人のなかでも変わっていく。
まるでリアルタイムの風景のように。
その人のなかでその風景が生きはじめる。

風景を抱いて生きる
て、とても生きてる、て思います(笑)
Commented by きゃー at 2009-10-23 10:07 x
すみません。利恵です。毎回仕事の話はさけんじゃいます!
そして再度 I LOVE YOU! (RockNRoll風に。世界各国津々浦々のAYUさんファンの方ごめんなさい...)
もう在米のほうが長くなってしまったので変な日本人で良いんです。(本心では純日本人でいたいですけど!) 

私は音楽ではなくて美術をやっていて、でも企業でも働いているんですが...どっちも中途半端なんですけど両方やめられないんです。個人的に、人生の選択について考えさせられるお話でした。
そして、がんばれ私!って思いました...。だから良いんですーAyuCafeは! 
あの、そして究極に余談ですけど、私は車の中では大音量で林檎かJanisJoplinを歌います。ステレオシステムは一年前に窓ガラス割られて盗まれたので:(
それと、イサムノグチ美術館、家から歩いてすぐそばなんですよー。って事はゲットーな界隈にあるって事ですけど...ほほほ。
残業中にお邪魔しました。(ふまじめ)難題が〜でもなんとかなるか..。
Commented by tsuki at 2009-10-23 11:04 x
ayuさんこんにちは。すごくすてきな記事ばかりで、
コメントしてないけど、ほぅーーっとしてました!

言葉じゃない人とのやりとり、すごーーく分かります。
バンドでも、恋人とでも、家族とでもありますね。
目に見えないけどたしかに何かがあって、それを共有できてる感じ。
いっしょに温泉につかってるような、ひとつの毛布にくるまってるような・・・

というか私は、人とのかかわりで、かなりの割合を、言葉以外のそういうところで感じたいタイプなのかもなーーと
ayuさんの文章を読んでて思いました。
言葉にするの苦手です。

それにしてもayuさんの歌声聴いてみたいです。ふふふ
Commented at 2009-10-24 00:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ayu_cafe at 2009-10-25 06:17
けいとさん、あなたは、もしかして
われわれのメンバーですか。。笑
どこかですれちがってたかもしれませんねー。
あるいは、わたしのバンド観ていて、
ケッとか言ってたかも。。笑
でも、きゃー、slidersのはなしができるなんて!
slidersは、いまいたら、いいだろうな、
と思いますね。。あの時代の流れの中で、
あのピュアである意味清潔な音作りは、
のりきるの、大変だったのかもしれませんね。。
ま、でも、わたしの中では、
なにかもいまだに鳴り止んでいません。
けいとさんもそうですよね、きっと☆
Commented by ayu_cafe at 2009-10-25 06:26
TMさん、明るいところが苦手。。のところに、
共感してもらってすごくうれしいです。
そう、第六感ってありますよね。。
そう言うの感じるときって、その感覚に、
ちょっと夢中になります。。

風景は流れの相か。。なるほど。。
相ってなかなかコメント欄で見かけません。。笑
相手ごとに異なる風景だけど、
交感しあえるのって素敵ですよね。

風景を抱いて生きることが
とても生きることであるなら、
かなり救われます。
なにか逃避、みたいに感じがちなので。。笑
Commented by ayu_cafe at 2009-10-25 06:37
利恵さん、投稿者欄に悲鳴、ありがとうございますね(笑)
悲鳴感が伝わり、うれしいです(笑)

わたしも手探りでいろいろ書いてみたので、
こんなコメントいただけると
わたしもうれしい悲鳴をあげたくなります。
なんとか納得したいですよね。

窓を割られてサウンドシステムを。。
きゃー、ワイルド(すいません)
ま、日本が安全すぎるんですよね、たぶん。。
でも、そちらいったら、ずっと好きだった
ソウルミュージックがぐっとお腹にせまって
きそう。。

イザムノグチ、近所!林檎、ジャニス、大音量!
@NY。。なんだかちょっと元気でてきました。。笑
Commented by ayu_cafe at 2009-10-25 06:53
tsukiさん、うわー、ほぅーーっとしてもらって
うれしいですねー。
実は、わたしもtsukiの記事読んでいつも
ほぅーーっとしてます。
マントン、デュラス、ボリスヴィアン、
美しき諍い女、白洲、ポニョ、バイキンマンのつなぎ。。
メロディーメイカーのお父さんのおはなし最高です。
そのメロディー、毛布ですよね。

言葉でえんえんと話し合って、
なんとか合意をえたりするとき、あるんですけど、その時の徒労感っていったらないですね。。
たぶん、海外はそうやっていかなきゃ
だめなのかもしれないけど。。
談志さんが、(落語の)会話の描写なんて
ほんとは、「あ?!う〜ん、おっ、うんうん」
とかで終わりで十分通じるよ、
みたいなこと言っていて、そうだそうだ
と思いました。

歌声。。じゃ今度youtubeで(嘘・笑)

Commented by ayu_cafe at 2009-10-25 06:54
鍵コメさま、
なんとうれしいコメント!!
メールさせていただきました!