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魂が踊る。マイケルジャクソン「THIS IS IT」

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正直に言うと、マイケルジャクソンのことをまるでわかってなかった。
この映画を観るまで。

ロンドンのO2アリーナで行われる予定だった
彼のコンサートの公演回数は、50回。
110万席のチケットは、5時間で売り切れていた。

この映画は、そのリハーサルの模様を
公開目的ではなく、プライベートな記録として
撮られていた映像をメインに編集したもの。


この様子が凄い。

アットホームなのだ。


マイケルとスタッフとバンド全員の
敬意と誠意しか感じない。

自分が好きで得意なものを
みんなが楽しんでくれるものを
いまどうしてもいいたいことを

とても丁寧に丁寧に「静かに」
夢中になってみんなでつくろうとしている。


マイケルがソロで踊るとき、
世界中からオーデションで選ばれたダンサーが、
舞台前で、そのパフォーマンスに見とれ、
歓声をあげる。

バンドのメンバーに、
マイケルが、「僕が一緒にいてあげるから大丈夫」
って声をかける。


もちろん、あの複雑なブレイクのポイントを
すべて生バンドで実現しているだけでも
壮絶なプロフェッショナリズムを感じる。



たぶん、緊張や罵声の現場というは、
まだまだ途上の環境なんだろうな。

ほんとうのプロフェッショナリズムって
危機感や訓練や向上心や礼節はもうとっくにあたりまえで、
お互いを尊重し合うアットホームの中にあるんだろうな。


このアットホームさを観ると、
その裏に築き上げられた、壮絶な訓練や
意識の極まりを感じて、ぞっとする。

壮絶なアットホーム。




映画の終盤、マイケルとスタッフ、バンドのメンバーが、
円陣を組んで、「手をつないで」、
マイケルがスピーチをする。


「前に進んでいこう、忍耐と理解をもって」



凄い。

私は、いったい
どれだけ忍耐をして、どれだけ理解に努めただろう。。

ちょっと逃げ出したくなる。




*************************




亡くなったことを差し引いても、これだけ評価の高い
映画も珍しいのではないだろうか。

ある女優さんは、ブログで
「凄すぎてどうすればいいのかわからなくなった」
と書いていて

ある女性カメラマンさんもブログで
「すっぴんで見に行ってよかった」(大泣きしたから)
みたいなことを書いていた。



特に、「Billy Jean」は圧巻だと思う。

これはパフォーマンスにおいて人間がなしえる
ひとつの到達点なんじゃないだろうか。


このダンスを見ると、優れたダンスというのは、
上手い〜、身体の動きが〜、どうのというより、

なにか目に目えないグルーブを
身体がつかまえた状態のことを言うのかなと思う。


踊っているのではなく、
音楽という魔術的なグルーブに
踊らされている。

ダンサーは、魔術的なものの触媒なのかも、と思う。


太古からある音楽の存在を考えると、
そういう意味では、彼は、
きわめて純度の高い、ダンサーなのかもしれない。



だから、これを見ると、マイケルがどうのか、
というより、
ダンスっていいなあ、
音楽っていいなあ、
と口をあけて思ってしまうし、

そんな魔術的な文化の魅力に、
彼が踊っている間中、
やさしくつつまれている気がして、

からだの細胞が元気をもらえる。


こういうのを、たぶん、

踊りたくなる、

っていうんだろう。




***********************




わたしが、とてもびっくりしたのが、
この映画が記録用として、たった2つのカメラで
撮られていること。

つまり2カメだけで、ほぼ、
同じ距離感でずっとマイケルのダンスを
映している。

これが、見れるようでなかなか見れなかった。

そして、ショービジネスの頂点にいる
マイケルのいままでの映像において、
2カメだけ、というのはありえなかった。


カメラの寄り引き、背後の演出、観客、
マイケルのアップ、メンバー。。。

カメラは、切り替えをするほど、
一見「面白い」「飽きない」映像になる。

でも、これは、カメラのカット割りの技術が
高ければ、どのアーティスト、あるいは、
近所の子供でも面白い映像になる。


前から思ってたのは、特にダンサーの映像の場合、
カット割りを細かくしてはダメだし、
もったいない、ってこと。

急なたとえでもうしわけないけど、
パフュームも売れだしてから、
カメラの数が多くなって、カット割りが増えて、
彼女達の高度な振り付けのシンクロの高さが
わかりづらい。
むしろ、むかしファンが一台のカメラで
俯瞰で撮っていたモーターショーとかでの
営業の時のダンスの方が、本来の良さがわかる。



こういうことは、ダンスに限らないかもしれない。
ショービジネス、あるいは、見せ方というのが、
ある種、飽和し、フォーマット化し、
なにを見てもあきてしまう。
伝わってこない。
演出すればするほど。


これは広告にもめちゃ言えると思う。


いまは、ごろんとそのものを見せた方が
ぐっとくる。(それもひとつの演出だけど)
どんなドラマより、プロフェッショナルの流儀
みたいなものの方が面白い。


だけど、まだ表現、演出に夢をみていて
その本来のものをしっかり
見ようとしないひとがまだまだいる。

「もっと表現で盛り上げてユーザーに夢見させてよ」
なんて軽〜く言われることがある。



マイケルのこの映像は、
彼と言う人間と彼の能力を
的確につたえる、傑作だと思う。

ただし、マイケルのプロ意識から考えると、
たぶん、亡くなっていなければ、
公開はされなかった。


この矛盾と奇跡。



リハーサルで八分目の力で、
すこし軽く踊る、

こういうとき、そのひとの能力が
逆に伝わってしまう。

変なたとえだけど、
熟練の料理人のまかない、みたいな。




これは、はっきり言って
あの裁判の証拠にさえなる。

いまどき、映像がやらせかどうかは
素人でも感覚でわかる。


ある意味、謙虚で、おどろくほど純真で
ダンスが好きで好きでたまらない
「男の子」がここにいる。


ここにはいないけれど、
ここにいる。







本日劇場公開最終日。
by ayu_cafe | 2009-11-27 08:43 | non category | Trackback | Comments(6)
Commented by まる at 2009-11-28 22:22 x
私も、彼の人間性を初めて知った感じです。
もっと子どもっぽく、わがままな人なのかと思っていました。
まるで違う。
心に正直に、純粋に音楽というものが彼の中から湧き出ている感じ。湧き水のように。それくらいすべてが自然でした。
そこに偽りも飾りもはひとつもない。
天才という一言では片付けられませんね。
そう、プロフェッショナルとはこうゆうことだと、本当に思いました。
彼のパフォーマンスは、着飾っても作り込んでいたわけでもなく、自然だったのですね。制作した方は、きっとそれを多くの人に伝えたかったのでしょうね。
彼の偉大さは、パフォーマンスじゃないんだと。
私は、「Human Nature」を聴いて、頬を両手で挟んでしばらく離せなかったんですよ。息を飲んで、声も出ないほど。
今まで聴いたこともあっただろうに、あまり印象に残っていなかったんです。こんなにいい曲だったかと、急に心臓を射抜かれたようでした。
「Billy Jean」はもう、マイケルの意思じゃなく、もう、魂そのものなのかな。
ソウルとはこういうことなのでしょう。
周りに観に行った人がいなくて、嬉しくて思いっきり長くコメント書いてしまいました。
長々と失礼致しました<(_ _)>



Commented at 2009-11-29 07:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jasminetea-m at 2009-11-30 12:52
ayuさん・・・、私もこの映画を観に行った一人です。
彼の人間性には惹かれたけど、淡々とした造りの映像の前では泣くことはなかったのに・・・。
今こちらの文を読んでいて、泣いてしまいました・・・。
「謙虚で、驚くほど純真で 踊ることが好きで好きでたまらない男の子」・・・。
本当に・・・そうです。
そして、「ここにいる」の言葉・・・。
暖かくって・・・。

私も映画を観たあとブログを書こうと思ったのに、上手く書けなくて・・・。
とても的確に、優しい目と心で彼のことが捉えられていて、表現されていて・・・。
嬉しかったです、ありがとう。
Commented by ayu_cafe at 2009-12-11 02:21
まるさん、うん、素敵な表現、わきでる水。
ダンスの泉ですかね、彼は。。
極まったもの、研ぎすまされたもの、って
おっしゃるように自然なんでしょうね。
自然、の境地、目指したい。。

頬を両手で挟んでしばらく離せなかった
っていうのもすごくわかる、
この映画でもそうなったし、
この前聞きにいった落語でもそうなりました。

ああ、どうしよう、って感じ。

よかった、こういうこと話せて。


Commented by ayu_cafe at 2009-12-11 02:27
鍵コメさーん、ごめーん、お返事おそくなった。
もう日本?お電話くださいね、
競合プレががんがん入ってしまい、
今年中の夏休み取得は絶望的です☆
なので、日本のクリスマスを共に楽しみましょう!
にゃはは。

マドンナのその映画、何度も観た。
ビデオでも持ってる。
いいよねー。あーうれしいな、あの映画のこと話せて。
やっぱ、プロってすごい。
あれ、モノクロの映像もかっこいいんだよね。。

リハが見れるなんて。。
そんなごほうびあるんなら、
過去とか帳消しだ(笑)

才能って発揮するものではなくて、
にじみ出るものなんでしょうかね。。

Commented by ayu_cafe at 2009-12-11 02:32
jasさん、こちらこそ、ありがと。
そして、お返事おそくなりごめんなさい。

あー書いてよかった。
なにかね、わたしは、あとから効いてきます、この映画。
そして、彼も、あとから効いてきます。

的確なんて、うれしいけど、
たまたま同じ時代の同じ場所で
同じように感じてしまう、って
ほんと面白くて素敵だな、と思います。

彼のようなアーティストは、
きっと曲やダンスだけでなく、
こんな機会もプレゼントしてくれたんでしょうね。。