ayuCafe

ハワイの本を読みながら、お通夜にいく。

ハワイの本を読みながら、お通夜にいく。_b0072051_8101081.jpg



わたしがいまの会社に入った直後、
いまから10年くらい前。

ある代理店さんに、わたしの紹介をかねて、
上司と打ち合わせに行った。

その代理店さんのクリエイティブディレクターの方と、
広告の案をつめている最中、その方の声の
トーンが低くて、わりとまったりとしていて
暖房も効いていて、静かで、
ついついうとうとしてしまった。



そのクリエイティブディレクターの方の仕事の仕方は、
ほんとうに、従来のこだわる広告づくり、という感じで、
コピー年鑑やADC年鑑をどさっともってきて、
さ、やろうか、みたいな感じ。
デザインをたくさん出して、コピーをたくさん出して、
最後の細かいスペックの文字まで、一字一句詰める。

そういえば、以前、隣の同僚が、その方と電話で、
接続詞が「を」なのか「が」なのか、ずいぶん長い間、
もめていたことがあった。



その方が亡くなった。40代後半。
会社では、みんなで、びっくりした、まだ若いのに、残念、
なんて、言い合い、わたしもそうだな、と思った。
最近若くしてなくなるひと、多い。
うとうとしている間に人は亡くなる。


でも、若いって、残念ってなにが基準なんだろう。
どこまで、何をやり遂げて生きたら、残念じゃないんだろう。
人並み?そんなに人並みって理想的なものなのか。
仮に人並みだとしても、
そんなひと言で言えるシンプルな規範なのか。
もっと複雑で多様なものではないのか。



お通夜は、白いバラの花を献花するだけ。
弦のひとが3人くらいいて、重々しい曲を生で弾いていた。



たぶん、ひとが亡くなった時点が、
そのひとのシナリオの終点。
それは、「若く」も「残念」でもない。

たぶん、あたりまえだけど、
人の生の価値観は、「長さ」だけではなく
「密度」というものさしがあってもいいのではと思う。



それにしても、ひとが亡くなったとき、
そのひとと関わった自分の時間まで、
あちら側にもっていかれるような、
虚無に帰ってしまうような、
あの感じはなんだろう。


それは、たぶん、死や虚無が、デフォルトだからかな。
基礎用件。。あらかじめ、生に含まれているもの。。
だから、こういうとき、ひんやりと気づくのかな。

たぶん、生と死は、波のようによせてかえしているものかも。
時にひいていく波のように、あちら側にひっぱられ、
時に、生命の躍動が、おしよせる。



***************************



お通夜に向かう電車の中で、ずっと
ハワイの本を読んでいた。

やっととれそうな「夏休み」は、
家族でハワイにしようかと思って。

ハワイはずっと憧れてた。
片岡義男さんの「僕が書いたあの島」っていう本は、
何度読んだかわからない。

浅井慎平さんの「気分はビートルズ」っていう本も
文章はまったく読まずに、写真だけを
くりかえし見ている。
この本にのっているハワイの草原の写真は、
まるで、グリーンゲーブルズみたい。


旅行前には、その場所に関する本を読んで、
映画を見て、音楽を聴く。
なにかの回路がだんだんひらいていく。

ポルトガルに行く前は、
マノエル・デ・オリヴェイラという映画監督の
インタビュー集を熟読してた。

イタリアに行く前は、
マルチェロ・マストロヤンニの映画をたくさん
見ていった。


ハワイの本でよかったのは、
山崎美弥子さんの「モロカイ島の贈り物」
小林聡美さんの「アロハ魂」
杉浦さやかさんの「はじめてのハワイ」
フランスのガリマール社のガイドマップナビ。
(このシリーズの文章と写真はとても惹かれる。)
あと、東京カレンダーという雑誌が別冊で
出している「ハワイ」という本は、ほんとに凄い。

空撮で、ダイヤモンドヘッドから、カイルア、
クアロア、ノースショアと周遊していくんだけど、
ひととおりみるだけで、なにか、達成感?がある。

とくにラニカイビーチまでの10個くらいの
小径をすべて写真付きで紹介してるなんて、
こんなの世界中のどこにもないのでは。。




***************************




ハワイの語感はほんとにすばらしい。
天国の公用語みたい。

ハレラクニ、なんて意味がわからなくても
祝福されているように感じる。


ワイメア、ラハイナ、カイルア、ハナ、ナ・パリ、
ハプナ、マネレ、ハレアカラ、マウナ・ケア、ホノルル。。


古い地名というのは、言霊がある。
名前って、いちばん強いキャッチコピーで
奥深い説明文で、文学で、音楽だと思う。


ポルトガルの地名、スペインの地名も
すごく好き。日本の古い地名も。



***************************



ハワイの本を電車の中で読みながら、ずっと考えていたのは、
あのこだわった広告づくりの仕方。

ともすれば、今の時代に、つくり手の発信側の
自己満足だけに終わりかねないこだわり。技法。

ひとつの新聞のコピーにひとばん費やす間に、
カタログの文字校正は、一冊できる。
いまは、カタログの制作単価の方が高いかもしれない。


わたしは、彼の仕事の仕方に全部賛成はできない。
でも、わたしは、これからも、技巧よりも、
効率と伝達速度を重視しながらも、
接続詞が「を」なのか「が」なのか、
にこだわってしまうと思う。

ひとは、ひとの中に残ってしまう。
ひとは、ひとの中に生きてしまう。

なぐさめではなく、事実として。



***************************



お通夜の会場に、彼の作品が展示されていた。
その中に、いくつか、わたしも関わった広告があって
生々しくて、ちょっと吐きそうになった。

ものづくりというのは、作品というのは、
ちょっとした仲良しの関係性よりも、
生々しく濃厚な関係性のようなものが、
残ってしまうんだな、とおもった。

仲良しではないから、作品でしかつながらないから、
かえって濃厚になる。

だからものづくりって素晴らしい。
あーあ、この仕事しててちょっと良かったかな。



***************************



帰りも、またハワイの本を読みながら、
電車に揺られていた。


ワイメア、ラハイナ、カイルア、ハナ、ナ・パリ、
ハプナ、マネレ、ハレアカラ、マウナ・ケア、ホノルル。。


幸福な言霊が、冷えた身体にあたたく、しみこむようだった。

あちら側に激しくひきこもうとする死や虚無と
こちら側にたえまなくおしよせる
生命や光のことを、本を読みながら、考えていた。
by ayu_cafe | 2010-01-25 08:36 | non category | Trackback | Comments(8)
Commented by トミミン at 2010-01-26 02:29 x
人は生まれた時から死に向かって生きてるんですよね。
なんだかそう思うと、一日一日、大切に丁寧に生きなきゃなって思います。
でも、実際はもう一週間たっちゃったぁって感じです、、、

ハワイは大好きです。
ホノルル空港に降り立った時のあの甘ーい匂いは、あぁーハワイに来たんだぁと思わせてくれる瞬間で、大好きです。
ラハイナ、また行ってみたいな、、、
Commented by まる at 2010-01-26 12:44 x
毎日をただ過ごしていると、見過ごしてしまっていることはあまりにも多くて、誰かが亡くなった時に、見えること・感じることもまた、多くありますね。
生きていること、死にいくこと、これはほんと、表裏一体ですよね。
人間だからこんなに色々考えてしまうのか、動植物のように、流れに身を任せて生きていくほうがいいのか、これもまた、いつまで経っても答えが出ません。

ハワイの音の響き、ほんと、優しいです。
Commented by ayu_cafe at 2010-01-27 01:36
トミミンさん、まったくそのとおり。
実際は、一週間、いや、一年、いや、10年
たっちゃってます☆
談春さんや談志さんの落語を聞いてると
そういうのも可愛いかなと、
最近は思うんです。
たぶんね、一日一日、大切に丁寧に だけ
みんなが、みんな生きられたら
ロックも落語も塩ラーメンも生まれなかったかも
なんておもったり。。

ハワイ!あーその匂い、その描写いいですねー。
うちは東京の仕事から帰ってきて
電車をおりると、ちょっとだけ海の匂いがします。
ラハイナ、いいなー。行ってみたい!
Commented by ayu_cafe at 2010-01-27 01:41
まるさん、きょうの、次郎さんのTVみました?

わたし、不器用だから、
いろいろ考えてしまうんです。
だけど、案外それがいいのかもしれません。

みたいなこと言ってました。

悩むものだけが進化する、てなことを
言ってたひともいたなー。

名前から音の響きを感じてもらってうれしいです。
世の中には、気前よく福音があふれてますね。
Commented by ikko at 2010-01-27 08:24 x
誰かの死・・・
とりわけ自分とご縁があった方の死が
教えてくれる、一番のことは、
「わたしは、生きている」ということだと思う。

死んでない = 生きてる 
ということではないんだよなーと、思ったりも。。

・・・あの方は逝ってしまったけれど、
わたしたちはまだ生きている。
明日も、そうであると願いたい。




Commented by ayu_cafe at 2010-01-28 23:51
ikkoさん、ほんと、まだ生きてるね、われわれ。
性懲りもなく、無反省に、罪深く。
生きてる、生きてる、よしよし、
まだ動く、動く。笑う。笑う。
おれもパリ行きたーい!
Commented by まる at 2010-01-29 02:06 x
次郎さんのTV、観てませんでした。
どの次郎さんですか?(坂上次郎さんが真っ先に出てきましたが)

うん、確かにいろいろ考えていいのかもしれない。
考えたあとはあたま空っぽにスッキリスカーンとなれたり☆

良し☆これからもいろいろ考えていきます☆

ayuさんありがと〜〜♪♪♪
Commented by ayu_cafe at 2010-02-02 09:35
まるさん、すし職人のすきやばし次郎さんです。
NHKのプロフェッショナルでやってました。
こんど記事にして紹介しますね。
背筋のびます。

スッキリスカーンってなるかも、たしかに。
なんなんでしょうね、人間って。
勝手な奴ですよね。。