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私は人生が甘いものでなくても構わない。

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千彩さん、
相変わらずカッコいい。




窓の向こうでは遠く風力タービンが回っている。
パリを目指すタリス(高速列車)一等コンパートメントは赤いシート。
私は流れる景色を眺めている。
オレンジ色の空にスレートブルーの雲。
地平線には影絵の木が均等に間を空け、一列に並んでいる。
私がヨーロッパで一番好きなものは、街と街との間に広がるなだらかなこの平原。

シャッターを数回切ってみたものの、窓ガラスに車内が写りこみ、うまく撮れない。
諦めてカメラをしまい、iPodを取り出してジェイムス・テイラー* を聴く。
夕陽を眺めながら聴く音楽がジェイムス・テイラーだなんて、
私ってなんて凡庸な人間なのだろう。
でも、凡庸ということは、私と似た人がたくさんいるということだ。
ならば、いま、この瞬間、日が沈んでいくのをぼーっと眺めながら、
私と同じように、ジェイムス・テイラーを聴いている人がどこかにいるかもしれない。
そうだとしたら、凡庸も悪くない、と思う。
もしも、そんな人が本当にいるのなら、
「私もいまジェイムス・テイラーを聴いていますよ」と教えてあげたい気もするけれど、
その人がどこにいるのかわからないし、わかったところで知らせることはできそうにないし、
たぶんその人と私が知り合うことは一生ない。
たとえ四列前に座る男性のヘッドフォンから
「Don't Let Me Be Lonely Tonight」が流れていたとしても、
私にはそれを知る術がないのだ。
そういうやりとりのためにツイッターみたいなものがあるのかもしれないけれど、
じゃあツイッターみたいなものを使って、その人と知り合いたいかと訊かれたら、
別にそこまでしなくてもいいや、という感じ。
私は、人と人とが簡単に知り合えなくてもいいと思っている。
自分が好きな場所や事柄を書き出して積極的に探せば、
私に似た人は簡単に見つかるのかもしれないけれど、
全然探してないのに偶然知り合ってしまったり、
探して探してやっぱりいないのかなと諦めかけたときに
やっと見つけたりするほうが驚きがあっていい。

乗務員がやってきて私に訊ねる。
"Sweety or Salty?"

私の前に置かれる甘いデザートのない食事。

金色の紙をむいて、小さなカマンベールチーズを私は齧る。

白い夕暮れにネイビーブルーの雲。今日は霞がかった満月。

空は立ち止まることなくその色を変えていく。

私は人生が甘いものでなくても構わない。

空が晴れていなくてもいい。

私が好きな空は、会うべき人がどこかにいるような、
見るべきものがどこかにあるような、自分が何か大事なことを忘れているような、
そんなざわざわした気持ちにさせる空。

私の人生はまったく効率が悪い。
by ayu_cafe | 2011-12-22 07:55 | Trackback | Comments(0)
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