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うたとたび。リスボン編

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ポルト、ナザレ、オビドスと周り、
リスボンに戻ってきたのは午後遅め。

天気がよくて風が気持ちよかったから
街に出かけたかったけど、
長距離バスの疲れと
ホテルのひんやりしたシーツの
誘惑に負けてしばし仮眠。


起きたら夕方で、
すこしぼんやりしてたら
夜になったので、

支度して、タクシーで
アルファマ地区のファドの
老舗レストランへ。


アルファマ地区は大震災で
崩れなかった下町のエリア。

坂の道が入り組んでいて
ファドを聞かせる店がたくさんある。



タクシーはアンティークな市電を
追い越し、オレンジ色の夜の
リスボンの街をゆく。

石畳の上を走るタイヤのあの感触。



タクシーの運ちゃんが
暗い露地にクルマを停めて
エンジンを停めたので
ドキドキしてたら、


ついてきて、
その店、この露地の奥で
わかりづらいから、

とのこと。
(ジェスチャーからの憶測)


ポルトガルはだいたいこんな感じ。
ひとがやわらかい。




ファドの老舗レストランは
地下にくだると
天井の高い大きな古い空間が
現れる。

ワインのカーヴのような
礼拝堂のような。

とても暗い。



メインの料理が来てしばらくして
はじめの歌手が登場。

すごく若い女性。
ワンピースでメジャーな曲をうたう。

ファドは、郷愁や情念のうたかと
思ってたけどこんな曲もあるんだ。



正装したギターのおじいさんの
ギターの音色と音質がとてもきれい。


すごいなあ、ホンモノだなあ、
と思って見とれる。




何組か歌って夜の12時。

ワインも効いてきてしまったので
途中できりあげる。



帰り際、妻がトイレに行っている
あいだ、レストランの狭いロビーの
ようなところで待っていると、

しばらくして、
みるからに大御所の歌手然とした
太った女性が入ってきた。


あ、このひと、今夜のトリのひとだ。


と思った。



しばし、その狭く古く暗いロビーで
大御所の歌手とふたりきりになった。

歌手は呼ばれたら
そのままダイニングに
入っていって歌う感じ。



間が持たないので
燭台の写真を一枚。




いまでも、あの狭く古く暗い
ロビーでじっと出番を待ってる
歌手と一緒にいた数分のことを覚えている。



歌手はシャーマンみたいな
触媒だと思う。


そのひとの中に
街並みがあり、風があり、
土があり、海があり、暮らしがあり、
諦めと、あがきと、悲しみがある。


となりにいたのは
ひとではなく、
そのようなものが全部混ざった
ぼわっとしたなにかだった。



わたしはそのうたを聴いていない。


でも、歌う直前の怖いほどの
緊張と威厳に満ちた
波動を今でもしっかり覚えている。


それは、すでに豊かな音楽だった。


音楽は、はじまる前から音楽なのだと思う。


わたしが何かをつくるとき
何かを伝えるとき

その聞かなかった音楽を
わたしなりにはじめようと思う。
by ayu_cafe | 2013-07-30 09:59 | Trackback | Comments(2)
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Commented by エリコ at 2013-08-06 00:58 x
その暗いロビーの情景が浮かびました。本番前の歌手が、ひとではない何かだったって、憧れます。伝えたいことがまず先にあって、それからその想いがいろんな形に
なるんでしょうね。
Commented by ayu_cafe at 2013-08-08 09:38
エリコさん、
情景が浮かぶなんてうれしいです。
情景ってすごい漢字ですよね。。

伝えたいことがまず先に。
大事ですよね。
職種とか、地位とか、プライドとか
よりまず先になんですよね。