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砂浜の熱、波の倍音

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村上春樹さんの本のタイトルを登場させて、
なにか書いて、とのお題があったので、
書いてみました。。





大磯の海は、すぐに深くなるので、
夏でも、そんなに人が集まってこない。
だから、少年は、大磯の海が好きだった。
昔から、海沿いに大きなホテルとプールが
あったが、そこにやって来る人も
海にまでは入ろうとしない。

少年は、とくに春先の海が好きだった。
春の太陽がさんさんと降りそそぐ砂浜は、
Tシャツになってもいいくらいあたたかい。
少年は、もってきたキャンプ用のシートを
砂浜にしく。
風がすこしあったので、シートの四隅に、
その辺に打ち上げられた木切れを置いた。
靴を脱いで、シートに横になり目を閉じる。

よせてかえす音が、頭の中に響く。
天然の波のサラウンド。
上空で旋回するとんびの鳴き声で、
あたりの静けさに気づく。

立体的な波の音に包まれて、
あたたかいビーチで目を閉じていると、
少年は、身体ぜんぶが、どこかに
浮かんでいるような気分になる。

波の音は倍音が多い。
何千、何万、何億という細かな粒が
一度にはじける音。

その音を聞いて少年は、
あるロックグループのボーカリストの
声を思い出す。
彼の声も細かな粒が
一度にはじけるような声で、
倍音が多くて気持ちがいい。

少年は、自然に彼のうたう曲を、
思い浮かべている。
norwegion woodという曲。

その曲の中で、主人公は、
女の子の部屋に案内される。
ノルウェー材でできた素敵な部屋に。

翌朝目覚めると、
女の子はいなくなっている。
主人公は、だまって
norwegion woodに火をつける。
つまり、ノルウェー材でできた
素敵な部屋に火をつける。

少年は、この歌詞とメロディーと
ボーカルが大好きだった。

静かで、気が狂いそうな喪失感。

少年は、目を開け、起き上がる。
春のまぶしい日射しが、
海原の上に、こなごなになって
こぼれ落ちている。
by ayu_cafe | 2007-03-24 23:51 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(5)
Commented by ayamlin at 2007-03-25 01:51 x
物語のはじめを感じさせる文章ありがとう。
これから、この先、どういう物語が続くのか興味があります。
次のお題は、この物語の続きに、さらにまた村上春樹の題名を
いれてもらえたりすると、うれしい(笑)
っていうか、この先どういう話が続くのだ?
海辺のカフカのような旅に出る話が続くの?それとも、恋愛につながるの?
うーーん気になって、寝れそうにありません。
連載希望しまーーす^^

リクエストに答えてくれてありがとう。。。。
また、リクエストに答えてくれること希望します^^

私も海の写真選んだんだよ!偶然だあ~。すごいなあ~。
すごいね。時とお題を共にできて、光栄に、そしてうれしく思う。
ありがとう・・・

あっ連載楽しみにしてます^^
そしていつか、有名な作家になったら、こんなことしたっけって
なつかしく思い出してちょ。
Commented by ayamlin at 2007-03-25 01:53 x
つうか、あっそうきた?
いやー。題名を英語にするとは、思い浮かばなかったーー。
やられた・・・・
Commented by ayu_cafe at 2007-03-25 03:29
ayaさん、このお話しは、
小説「ノルウェイの森」が表現し、
ビートルズの同名曲が表現する
静かで激しい喪失感を、
春の輝く日射しがふりそそぎ、
波のサラウンドに囲まれた
あたたかい砂浜に置いてみようと
思って、書きました。

少年は、あの旅を終えたカフカ君であり、
海辺のカフカを書き終えて、新しい自由を
手に入れたように思える50歳をすぎた作者かな。

深遠な人間の情感を、より大きな世界の中で、
表現し、より強い生命力に結びつけていく
作者の状態を書いてみたのかもしれません。

だから、ここで、このお話は終わりなんです。
とりあえず。。

ま、とにかく、解説って野暮ですね。。

砂浜の熱と波の倍音を
伝えたかっただけとも言えます。。

んで、有名な作家は、
終電ダッシュなんて、してないでしょうね。。

でも、おもしろかったです。
Commented by at 2007-03-26 14:03 x
マスターの色がとてもよく出てますね~。
波の倍音と喪失感、伝わってきました。

で、おもしろかったのでしたらどうでしょう?
1年に1度ぐらい、こうして短編を書いてみては。
純粋に読みたいですよ。
Commented by ayu_cafe at 2007-03-27 02:37
Jさん、ありがと。
でもね〜、結構衰弱しました、
これ書いて(笑)

自らの羽根で織った気分です。。
羽根の残量が心配です。。