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2007年 03月 24日 ( 1 )

砂浜の熱、波の倍音

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村上春樹さんの本のタイトルを登場させて、
なにか書いて、とのお題があったので、
書いてみました。。





大磯の海は、すぐに深くなるので、
夏でも、そんなに人が集まってこない。
だから、少年は、大磯の海が好きだった。
昔から、海沿いに大きなホテルとプールが
あったが、そこにやって来る人も
海にまでは入ろうとしない。

少年は、とくに春先の海が好きだった。
春の太陽がさんさんと降りそそぐ砂浜は、
Tシャツになってもいいくらいあたたかい。
少年は、もってきたキャンプ用のシートを
砂浜にしく。
風がすこしあったので、シートの四隅に、
その辺に打ち上げられた木切れを置いた。
靴を脱いで、シートに横になり目を閉じる。

よせてかえす音が、頭の中に響く。
天然の波のサラウンド。
上空で旋回するとんびの鳴き声で、
あたりの静けさに気づく。

立体的な波の音に包まれて、
あたたかいビーチで目を閉じていると、
少年は、身体ぜんぶが、どこかに
浮かんでいるような気分になる。

波の音は倍音が多い。
何千、何万、何億という細かな粒が
一度にはじける音。

その音を聞いて少年は、
あるロックグループのボーカリストの
声を思い出す。
彼の声も細かな粒が
一度にはじけるような声で、
倍音が多くて気持ちがいい。

少年は、自然に彼のうたう曲を、
思い浮かべている。
norwegion woodという曲。

その曲の中で、主人公は、
女の子の部屋に案内される。
ノルウェー材でできた素敵な部屋に。

翌朝目覚めると、
女の子はいなくなっている。
主人公は、だまって
norwegion woodに火をつける。
つまり、ノルウェー材でできた
素敵な部屋に火をつける。

少年は、この歌詞とメロディーと
ボーカルが大好きだった。

静かで、気が狂いそうな喪失感。

少年は、目を開け、起き上がる。
春のまぶしい日射しが、
海原の上に、こなごなになって
こぼれ落ちている。
by ayu_cafe | 2007-03-24 23:51 | ayuCafe 創作 Bar | Trackback | Comments(5)